俺は追う側なのだと思っていた。



俺に背を向けるヒィッツは相変わらず無防備で腹が立つ。
いつ何時自身の首に刃を突きつけられてもおかしくない筈の俺達の間で、
振り向きもせず、何も無い背中を向けるのはバカだと思った。
「ヒィッツ。」
名前を呼べば、なんだ、と振り返る。
だが、身体はこちらを向かない。
俺の声は届いているというのに、
程良く無関心で顔しか見せないその返事にも腹が立つ。
「今ここで、俺がお前を殺そうとしたら。」

死ぬよな。

語尾を飲み込んだが、ヒィッツはほんの少し片眉を上げ、
まるでその言葉が聞こえていたかのように。
「かもしれん。」
そう言って、やっと立ち止まって振り返った。





私は追われる側なのかと思っていた。



数歩後ろを歩くレッドの気配は相変わらず読めない。
今にもその殺気で襲いかかってくるのかと思えば急に刺が消える。
そんな相手の前を行くのは自殺行為なのかもしれないと思った。
ヒィッツ、と呼ぶ声がする。
「なんだ。」
振り返る。身体は向けない。
レッドの視線は確かに私自身への抗議を繰り返しているのだが、
全てを傾ける事は命取りだ。
「今ここで、俺がお前を殺そうとしたら。」

死ぬよな。

最後の一言を飲み込んだのは、レッドの無いに等しい理性の現れか。
その理性の一線におや、と片眉が上がる。
「かもしれん。」
そう言って立ち止まり、振り返る。





振り返ったヒィッツの格好はいつもの様にどこか気に入らない。
すぐ目の前まで近寄ってネクタイを掴んだところで、やっと不機嫌な顔をした。

そうだ。
その顔が、俺への本心だ。
愛想笑いなど欲しくはない。
俺はお前の素顔が欲しい。

「俺はさぁ、」
手を外そうと伸びてきた指を紙一重でかわして、引き寄せる。
「お前のそういう顔、すげぇ好き。」
反論の台詞は強引に塞いで黙らせた。





今更振り返ってしまった事実は消しようもないが、
どうしてその伸ばした腕を逸らすのか、と不機嫌になる。

そう。
その腕こそが、お前の仮面だ。
芝居じみた笑みなど見たくはない。
私はお前の素顔が見たい。

「俺はさぁ、」
虚言を繰り返すその腕が不快で外そうとすると、引き寄せられた。
「お前のそういう顔、すげぇ好き。」
嘘つきめ、と吐き捨てようとした言葉は唇で塞がれた。








数秒の沈黙を共有して、
互いに何も言わず、並んで歩く。
「お前、隙がありすぎ。」
そう言ってレッドが笑えば、
「これは余裕、というものだ。」
そう返してヒィッツの口角が上がる。

言ってろ、バカ。
うるさい、単細胞。

交わす言葉は全て悪態ばかりで、
それでも互いの影は同じ位置に伸びて変わらない。
罵るその口も、
躍起になるその唇も、
互いを覗き込もうと必死に笑い続ける。





その道行は遙か遠く、決して交わる事は無く。












* * * * *

自身の中でのレドヒツってのはレッドがヒィッツを追うイメージが強いんですが、
じゃあ何で追いかけるのかって考えたら、
『追われるのが嫌だから追う』という考えもありかなと。
逆に追われる側からすれば
『追うのは嫌だから追わせる』という考えも出来る訳で。

まあぶっちゃけ何が言いたいって、
レッドは積極的、ヒィッツは消極的ってイメージなだけです。
(身も蓋もないな)