足音は通路の途中まで来たが、やがてピタリと止まった。 「―――――ヒィッツ?まだ居るのか?」 幽鬼の声だ。 トレーニングルームで別れたが、幽鬼も自分のトレーニングを終えて戻ってきたらしい。 だが、それでいくと随分と時間が経ってしまっている。 逆に言えばそれだけの時間ヒィッツがシャワールームに居るのは、 幽鬼からしてみれば何かあったのかと思うところだ。 だが、別に返事をしなければ問題は無いはず。 人違いか、とシャワーを浴びて帰ってくれるだろう。 しかし。 動きを止めていたレッドの手が、ヒィッツの弱い所を突いた。 「あ!」 声が上がってしまい、慌てて口を塞いだがもう遅い。 「?ヒィッツ?」 足音が個室の前まで近付いてくる。 心臓が早鐘のように打ったが、レッドはそんなヒィッツを気にするでもなく、 薄く笑みすら浮かべている。 「どうした?具合でも悪いのか?」 返事しない訳にもいかない。 「い、いや…何でもない。」 「そうか?随分と長く居るようだが…。」 その間に、レッドの指がヒィッツの胸の突起を弾いた。 「んンッ!」 思わず漏れた声に、ドア一枚向こうの幽鬼の気配が乱れた。 「本当に大丈夫か?どこか打ったとかつったとかじゃないのか?」 個室は鍵がかかっているのだから何かあっても幽鬼がドアを開けられる訳ではないが、 緊急事態と判断すればどうするかは解らない。 こんな姿を見られるくらいなら死んだ方がマシだ、と、 ヒィッツは喉の奥に押し出されそうになる声を必死で堪えると、 「大丈夫だ。ちょっと汗が気になって…洗うのに時間がかかっただけで…。」 自分が時間をかけそうな事を必死に考えて口実にする。 「そうか?なら良いんだが。」 幽鬼はヒィッツの返事に納得したようで、少し離れた個室のドアが開く音がした。 「何かあったら言ってくれ。」 少し大きな声で呼びかけられ、ああ、と軽く返したところでハァ、と息をついた。 レッドはそんなヒィッツにもう一度追い被さるように身体を重ねると、 「何かあったら、ねぇ?今まさに”ナニ”されてるのにな。」 わざと俗的な煽りを囁いて、右手をまたヒィッツ自身に添える。 「!」 自分の場所と幽鬼の場所のシャワーの音が混ざって水音は大きく聞こえるが、 もとより音がよく響く場所だ。そして防音な訳でもない。 先刻より激しく擦られる感覚に、ヒィッツは咄嗟に自分の腕に歯を立てて声を堪えた。 そんな様子を楽しそうに眺めながら、レッドは左手を内腿にそえて撫でるように動かす。 下腹部に与えられる愛撫に思うように上り詰める事も出来ず、ヒィッツの閉じた目に涙が浮かんだ。 しばらくして、幽鬼の方のシャワーの音が止まる。 「…本当に大丈夫か?俺はもう上がるが…。」 ドアの開く音がして、また数歩こちらに近付く気配。 ヒィッツはなんとか口を腕から離すと、 「大丈夫だ。ついでに髪も洗っていくから…まだ時間がかかるだけ…。」 そこまで言えたのは上出来だ。 レッドの左手の指はヒィッツの中にゆっくり侵入して来ていたのだから。 「そうか。」 今度こそ幽鬼は納得したように答えると、 「じゃあ、あまり筋肉を温めすぎないようにな。後で響くぞ。」 「あ、ああ。すまないな。」 そのまま足音は真っ直ぐシャワールームの出口へと遠ざかっていく。 そしてドアの閉まる音と共に、2人が居る場所だけの水音がまた大きく響き始めた。 ヒィッツの身体の力は抜け落ちそうだったが、 レッドが下腹部から放した右手でその上半身を支えていたので、何とか立ったままの姿勢を保っている。 「…上手く誤魔化したな。」 囁いた声は笑っている。 「誰のせいで…!」 ヒィッツは振り向いて睨みつけようとしたが、レッドの左手の指にそれは遮られた。 先走りとボディーソープでぬるんだそこを、侵入してきた指が先刻より強めに出入し始める。 「ンンンッ!」 喉が反り、閉じた口から声が漏れたが、その声音は劣情に流され始めたものだ。 レッドは肩甲骨の辺りに歯を立てると、その筋肉に沿ってそのまま当てた歯を滑らせた。 左手の指は1本から2本、そして3本と、ヒィッツの気づかない内に増やされ、中をかき回している。 クチュクチュとシャワーとは違う粘膜質な音が響き、お互いの呼吸が荒くなった。 「あ…や…ッ……もう…!」 ヒィッツはもう一度振り向いたが、今度は決してレッドに抗議する目ではない。 次を与えて欲しい、いわば哀願の視線。 引き気味だった腰ですら、ヒィッツは無意識にその指に合わせようと動いている。 レッドはその様子に満足気に笑うと、 「…欲しいんだろ?」 残酷なまでに優しく囁いて、その唇を軽く塞いだ。 そんな僅かな感触ですら、今のヒィッツには焦らされているようで。 背後から穿つように突き入れられて抉る様に引き抜かれる。 そんな獣の様な交わりも、意識の飛びかけたヒィッツには悦楽しかもたらさなかった。 ※ ※ ※ ※ ※ シャワーは変わらず出しっぱなしだが、今更気にすることも無い。 レッドは自分の身体を壁に預けて、ヒィッツの身体を背後から支えるように両腕を腰に回して立っている。 ヒィッツもかろうじて自分の足で立ってはいるのだが、ほとんどの力は抜けているのか、 まるで甘えるようにレッドに身体を預けてしまっている。 どちらともなく溜息が漏れたが、それは嫌悪のものではなかった。 「―――――何度も言うけどよ。」 沈黙を破ったのはレッドの方だ。 「お前は間合いを取る為に脚をそこそこ使うから、下半身はいいんだよ。 ただ、能力で使うのが指先だろ。それに頼るから上半身が弱くなってる。」 両方バランス取らないと負担はもう一方にかかってくる。 もう少し鍛えとけ、とレッドは首筋に軽く唇を落とした。 「…なんでそんな事解るんだ?」 最初に言われた時の疑問をもう一度繰り返す。 自分の身体なのに、何故レッドの方が詳しいのかと。 レッドは肩越しに見つめるヒィッツに同じく視線で返すと、 「お前の身体さ、上半身に傷が多いんだよな。」 細かくて小さいものだけど、と、舌先でそれらしい場所を突付く。 「体勢崩そうとかかる相手ってのは足を狙う。 それを避けてるから下半身に傷は少ないし、避けられるって事は脚力が強い。 けれど、上半身に狙って傷が多いって事は、 相手の拳やハイキックを受けた時に、受身が出来てねぇんだ。 そこで上が崩れれば自然と相手も上を狙うし、結果として脚にも響く。」 だから、細かい傷がつけられちまうんだ。 そう付け足した声に僅かに悔しさが見えたのは、ヒィッツの気のせいだろうか。 「お前の事なら何でも解るぜ、俺はな。」 レッドにしては予測もつかない気障な台詞だ。 ヒィッツの顔が上気したのは、本人ですら気がついていない。 「…ともかく、折角忠告してやったんだ。ありがたく思えよ?」 そう言っていつもの底意地の悪い笑みで、レッドはヒィッツの耳に噛み付く。 「俺以外の奴に傷なんてつけさすな。もったいねェ。」 「―――――身勝手な奴だ。」 そう言ったヒィッツの声も今は笑っている。 温かなシャワーの流れは、まだしばらく2人の上に降りそそぎ続ける事になりそうだ。 * * * * * 最近油断すると微妙にラブい(寒)2人に落ち着き気味。おかしいなぁ。 まあパラレルな性格なのは昔からですけど! レッドはヒィッツが自分以外に傷つけられたりするのを嫌がってたらいいなぁ、とか。 ひねくれた独占欲萌え。 |
| BACK← |