十傑集といえどもある程度のトレーニングは行う。
一見、武闘派と頭脳派の色が分かれているように見えるが、
その身体能力は一般人と比べれば平均以上のものだ。
ただ、やはりある程度鍛えているか否かはその実践の様子で解る。
レッドや怒鬼は言うに及ばず、幽鬼やアルベルトも通常以上の鍛錬はしている。
逆にセルバンテスや十常寺などは基礎は行うものの、根本的に”鍛える”事は無い。
他の者達はそれぞれが自分の能力と基礎体力に合わせているのであまり目立たない。
だが。

「そうじゃない。右からこう来た時は…。」
「でもその動きだと相手に…。」
「だから、ここで軸足を反転させて…。」

その日、トレーニングセンターに珍しいツーショットがあった。
幽鬼とヒィッツである。





「ふぅ…思ったより厄介だな。」
「でもさっきよりはだいぶ動きが慣れてきた。後は実践で動けるかだろう。」
「出来る事ならこんな接近戦は遠慮したいがな。」
そんな会話を交わし、互いに笑う。
ヒィッツはその能力から接近戦に持ち込まれる事はほとんど無い。
だが、逆を言えばそう持ち込まれた時に弱いのだ。
間合いをすぐ取れればいいが、接近戦になった場合と言うのは大概相手の脚力が強い。
そのままなだれ込まれれば、かなり不利なのだ。
「―――――さすがに疲れたな。」
タオルで汗を拭きながら、ヒィッツはドリンクのボトルを幽鬼に寄こした。
幽鬼は意外にも基礎体力は高い方で、ヒィッツほどの汗はかいていない。
よくよく考えれば、その幽鬼に指導をもらいながらトレーニングセンターに篭っていたのだ。
ヒィッツにしてはかなりの運動量だろう。
「随分と熱心だったな。何かあったか?」
幽鬼はそれでもドリンクを半分ほど一気に飲んでから尋ねた。
「いや、先日の任務でかなり痛めつけられたんでな。もう少し基本くらいは覚えておいた方がいいかと。」
「珍しいな。」
嫌味ではなかったろうが、幽鬼のセリフにヒィッツは少し苦笑した。
確かにあまり熱心にトレーニングをするタイプではないのだから当然だろうが。
「とはいえ、あまり無理しても逆効果だぞ。」
「そうだな。私はもう上がるが…。」
「ついでだから俺はもう少しこなして行くよ。」
そうか、とヒィッツは立ち上がると、
「今日はすまなかったな。付き合わせて。」
「いや、ヒィッツと組み手なんてなかなか無いからな。楽しかったよ。」
そうしてお互いもう一度顔を見合わせて笑うと、
ではまたな、とヒィッツはトレーニングルームを後にする。
タオルで拭ききれなかった汗がシャツに張り付いて不快らしく、
ヒィッツは少し眉をひそめ、シャワールームへ向かった。





※ ※ ※ ※ ※





シャワールームはそれぞれが個室になっているのであまり人目を気にすることも無いのだが、
普段トレーニングセンターなど熱心に使うことの無いヒィッツはそれがどうも気恥ずかしく、
何となく一番奥のシャワーを選んでしまった。
熱を帯びた身体に温かいシャワーの流れが心地良い。
トレーニングとはいえそれなりに緊張はあったのだろう。筋肉の力が抜けていくのを感じる。
ふぅ、と知らず溜息をつき、多少なりとさっぱりした所でシャワーを止める。
どうせまた部屋に戻れば寝る前にでもシャワーは浴びるのだ。
洗髪等はその時で良いだろう、とヒィッツはドアを開けた。
その時、シャワールームの入り口からやって来たのは。



「なんだヒィッツ、珍しいな。」
プールの方にでも居たのか、トレーニングルームでは見かけなかった男が一人。
「げ!レ、レッド…!」
小声であったが、(自分の悪口に対して)地獄耳のレッドは聞き逃さなかった。
「ご挨拶だなぁ?俺が居たら何か不都合でもあるのかよ?」
ほんの少し青筋が立っているのが解る。
「い、いや…別にそういう訳では無いが…。」
ヒィッツからすれば、単に自分のプライドの問題だと言うこと。
以前の任務で2人とも国警と手ひどい痛み訳でボロボロになり、
その時顔が腫れ上がったというような無残な格好をレッドに見つかってしまった。
あんな無様な事にはなりたくないから、こうしてなるべく気づかれないようにトレーニングしていたというのに。
「フン…まあいいけどな。大方この間の引き分けでボロクソになったのが嫌だったんだろ、カッコツケ。」
…それを見透かされるのが嫌だったんだ!
常にスマートに戦うのをよしとするヒィッツにとって、あまり目に見えた努力はしたくないのだ。
そして、人の気も知らずそうやって突っ込んでくるレッドを避けたかったのも本心で。
ヒィッツの悶々とした嫌悪をよそにレッドはそれにしても、と笑い、
「どうせ組み手だろ。声かければ相手してやったのによ。」
「…お前が相手じゃ途中でうっかり殺されかねん。」
半分冗談、半分本気だ。
組み手、などという生易しいものではすまない予感がする。
「それ位必死にならねぇと訓練の意味が無ぇだろ。」
さらりと言ってのけると、レッドはまあいいかと肩を鳴らし、
「お前、下半身のバランスはいいけど上半身の筋肉が弱いんだよ。
 上ガード鍛えねぇとラッシュ受けた時に支えられなくなるぜ。」
そう言ってポン、とヒィッツの左肩を叩く。
意外にまともなアドバイスにヒィッツの方が面食らった。
「なんでそんな事解る?」
先の通り、レッドとの組み手は実践になりかねないのでほとんどやった事は無い。
せいぜい任務後の”お遊び”くらいはあるが、あれは自分達の能力も使った本気の”遊び”だ。
そんな細かい部分までは―――――。
「戦ってる時にそういう点も見抜けなかったら接近戦なんてこなせねぇよ。もっとも…。」
レッドはそこまで言いかけ、ピタリと口を閉じた。
「?もっとも?」
ヒィッツが先を促そうとすると、レッドは急にニヤリと笑い、
「…言うより直接教えた方が早そうだな。来いよ。」
言うなり、ヒィッツの首に腕を引っかけて手近の個室に引きずり込んだ。
「え?あ?!なッ!レ、レッド!」
「どうせこれからシャワーだったんだ。ついでに付き合え。」
「私はもう浴びたんだ!放せ!」
「部屋でもどうせ浴びんだろ。何回浴びても一緒だって!」
そう言ってレッドはヒィッツをシャワーの備え付けてある壁側に押し付けてしまうと、
後ろ手にそのドアの鍵を閉めてしまう。
逃げ出そうにも2人も入ることを想定していないこの広さでは思うように動けない。
ヒィッツがもがくのをよそに、レッドはシャワーの栓を勢いよくひねった。
温度を確かめていなかったせいで、さっきヒィッツが浴びたシャワーよりはるかに冷たい水が注ぐ。
「うわ!!冷たッ?!」
その水にひるんだ隙に、レッドは右腕でヒィッツの首を壁に押し付けるように固定してしまうと、
「…隙が出来ると喉元が空くのは致命的だぜ?」
そのままグイ、と腕に力を込める。ヒィッツの顔が息苦しさで青くなる。
「グ………!」
酸素を求めて口を開くと、そのままレッドの口で塞がれた。
気道の確保の為に無意識に伸ばしていた舌が絡め取られ、唾液がシャワーに混じって流れ落ちる。
力が抜けそうになって、ヒィッツは指先を後ろの壁に這わせたが、タイルは水流で濡れて滑るばかり。
その間にもレッドに舌はヒィッツの口内を蹂躙し、左手が胸に添えられる。
やんわりと胸を彷徨っていたレッドの指が、その突起を急に摘み上げた。
「ヒぐッ!」
口が開けないので喉の奥で止められた声が言葉にならずに漏れる。
やっとその舌と口を解放したレッドは、水が滴り落ちるその耳に軽く歯を立てて、
「な?こうして上だけ攻められてると、下にも響くだろ?」
そう囁き、含み笑いを交えて耳の淵を歯でなぞる。
ヒィッツはヒィッツで意味が違うだろう、と反論したいのだが、
意味は違えど言葉通り、上に集中した愛撫で足の力が抜けそうなのだ。
今は必死にその身体を支える事しか出来ない。
抵抗できなくなった様子を悟ると、レッドは右腕をヒィッツの首から外し、
代わりとばかりに一度その喉笛に噛み付くと、
「…ついでだから背中流してやるよ。」
「え…。」
ヒィッツがその言葉の意味を理解する前に、レッドは備え付けのボディーシャンプーを手に取っていた。
「ちょ、」
っと待て、とヒィッツが止める前に…止めても聞かないだろうが…レッドの手がヒィッツの胸を滑る。
ヌルリとした感触が手の平で広げられて、ビクンとヒィッツの身体が跳ねる。
僅かに端についた泡や原液そのままのぬるみを利用しながら、
レッドの手がヒィッツの胸から脇腹、腰、と落ちていく。
「や…レッ……!」
やっとの思いで両腕を伸ばしてレッドの身体を押しのけようとしたが、
逆にその腕を掴まれて反転させられた。
「!?」
壁に両腕をつく格好で…レッドの方に腰を突き出すような姿勢になってしまう。
今度こそヒィッツは自分のそんな淫猥な格好に顔を紅潮させたが、
そのままぴたりとレッドの身体が自分の背に重なり、動けない。
「嫌だ!止めろレッド!こんな…!」
「今更、だろ。普段もっとヤラシイ格好してるくせに。」
そう耳元であおるように囁いて、レッドはまだぬるんでいるその手でヒィッツ自身を握りこんだ。
「ク―――――ッ!」
右手でそのままゆっくりとヒィッツ自身を擦り、左手は上半身を支えるように胸に這わせる。
「や…ぁ……レ…ッ…!」
切なげに漏れる声に口元を緩ませて、レッドは濡れて乱れた髪を口に咥えたり、
その首筋に歯を立てて甘噛みしたりしてみる。
シャワーの水温は通常の温かさになっていたが、それすらも冷たく感じられるほど身体が熱い。
自分の手にシャワーと違う流れを感じて、レッドはペロリと唇を舐めた。
だが、その時。



ガー………ッ



シャワールームの入り口が開く音がして、2人とも同時に我に返った。






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