+++ 不意討ち



ケホ、と咳が出て、レッドがこちらを向いた。
「何だよ風邪か?」
そう言って、口に咥えていた棒を…正確には棒付きキャンディを転がす。
相変わらずガキくさい奴だ、と思ったがそれは黙って、
「少しな。空調が良くなかったらしい。」
先日うっかりして暖房をつけたまま寝てしまった。
おかげで部屋が乾燥し、多少喉を痛めてしまったようだ。
「相変わらず弱いな。」
そう言ってレッドは鼻で笑った。
お前に比べれば誰でも弱い、と思ったがそれも言わない。
と、同時にまた咳が出た。
のど飴を買っておいた筈…とスーツの内ポケットを探る。
「何。」
「いや、のど飴を買っておいたんだが…。」
置き忘れでもしたのか、見当たらない。
「飴なら半分やろうか?」
そう言ってべぇ、とレッドが口を開ける。
舌先に多少小さくなった棒付きキャンディ。
いるか馬鹿、と言いかけて、ふと悪戯心が起きた。
レッドに近付き、隙を突いてキャンディを取り上げる。
「あ!」
「飴半分はいらないが、」
そう言って、私の予想外の動きに慌てたレッドの口を自分から唇で塞ぐ。
触れた舌先は砂糖菓子のように甘い。
唇を離してもまだ目を丸くしていたレッドの口に飴を戻すと、
「風邪を半分進呈しよう。」
そう付け足して、レッドの真似をしてべぇ、と舌を出してやった。








+++ やってみたい



目の前の敵はもうとっくに息絶えていたのだが、
何となく納得がいかなくて、もう一度刀を上から振り下ろしてみた。
ガチン。と骨の当たる不快な音。
血は大量に溢れたが、やはり上手くいかない。
今日、急に思い立って何十人と試してみたのだが、どうやっても骨が当たる。
刀の手入れは怠らないから切れ味には申し分ないのだが、
肉は切れても骨が切れない。
眉をひそめて仕方なく刀の血糊を拭いていると、
後方からパチンパチンと実に機嫌の良さそうな音がする。
振り向くと、ヒィッツがこれまた機嫌良さそうに指を鳴らしている。
その先の敵を綺麗に真っ二つにしながら。
肉も骨も全て綺麗に。

「………いいなぁ。」

呟いた羨望のセリフは、アイツの前では絶対に言わない。








+++ お互い様



次の任務でナントカとかいう場所に潜入するのだと言っていた。
だから変装のつもりなんだろうが、ヒィッツの格好は妙にむず痒い。
いつものはねた後ろ髪を一つにまとめて、前髪は少し下ろし気味で、
何より、目をごまかす為にとかけているメガネ。
目の前にいるのがヒィッツだとはすぐには信じ難い。
あからさまに不審な顔をしてやったら、
好きでこんな格好ではない、と返された。
その声は確かにヒィッツなのに、
目の前の男は、ガラスを通してどこか違う世界を見ている。
ムカついて、そのメガネの淵に噛み付いた。
ガチンと歯に当たる金具の感触が更に気分を悪くする。
「気持ちはわかるがいい加減にしろ。」
そう言って、ヒィッツが俺の髪を引っ張った。
「いつもはお前が違うところを見ているくせに。」
そう言って、俺の眉間をマスクの上から指で弾いた。








+++ あまのじゃく



珍しく大人しくしている、と思っていたら次の間に吐いたセリフは「膝を貸せ」。
何を物好きな、とは思ったが、レッドが陣取っているのは私の部屋のソファなのでどうしようもない。
軽く頭を上げて位置指定したレッドの脇に腰をかけると、
ずり、と身体をよじって本当に私の足の上に頭を落ち着かせてしまう。
「………膝枕って、」
神妙な顔をしてレッドが口を開く。
「実際に頭を乗せるのは膝じゃないのに、何で『膝枕』なんだ?」
…そう言われても。
だが確かにな、と、つい口をつぐんで考え始めてしまったら、
落ち着いた筈のレッドの頭がまたゴロ、と動く。
「眩しい。」
そう言って、天井の照明に目を細める。
「真上を向いているからだろう。」
「どうにかしろよ。」
…そう言われても。
照明を消そうにも立ち上がる事はさせてもらえそうに無い。
どうしたものかとまた考え始めてしまったら、
レッドの右腕が伸びて、私の頭を引き寄せた。
「!」
その距離、約20センチ。
いつもよりほんの少し離れた、いつもと逆の目線で、レッドの顔がある。
「そのままでいろよ。」
よく見れば、私の頭でレッドの顔に落ちる影。
「…この姿勢は辛いんだが。」
「俺が寝るまででいい。」
そう言って、引き寄せていた右手が私の髪を梳いた。
”続き”が無いのが不自然に思えるほど穏やかな動き。
「―――――なるべく早く頼む。」



思った事の逆を言うのは、レッドのクセが移ったせいだ。










* * * * *

SSに出来なかったネタ救済措置(苦笑)。
でもなんかもう少しいじったらSSに発展させられそうだなぁ。

もし今後似たようなSSが出来たらすみません(汗)。