| 窓の外はどこか薄暗い。 だが夜は明けており、じっと耳を澄ませば、ザァザァと雨の音が聞こえる。 珍しく豪雨に見舞われた朝は身体がどこかに置き去りにされている気がする。 そんな事をぼんやり考えながら、レッドは背中越しにヒィッツの身体を抱きしめた。 「………何だ?」 起きかけてはいたものの、うつらうつらしていたらしいヒィッツは、 レッドの突然の行動に多少不快な声で訊ねた。 「雨なんだよ。」 もちろんレッドはそんな事は気にしない。 ただ、朝からの雨は何故か苦手で、 こうして現実を捉えていないと自分がどこかに何かを忘れ去る気がする。 冬とは違う生温い部屋の中、少しだけ冷たいヒィッツの肌が心地良かった。 「―――――結構降っているようだな…。」 「ん。」 風の音こそしないにしろ、木々の葉に当る雨の音は部屋に響いた。 自分の目の前に晒されたヒィッツの左耳に軽く歯を立てると、 腕の中の身体が僅かに跳ねる。 だがレッドは特にそれ以上の事は求めず……… 代わりに鼻先を少し伸びたヒィッツの髪に埋めると、 「面倒くさい。」 そう呟いて、腕に力を込めた。 「珍しいな。」 「なぁ、」 「何だ?」 「俺がさぁ…。」 そう何かを言いかけたレッドの声はそこで止まった。 「俺が…何だ?」 「やっぱいい。」 レッドはそのままヒィッツの髪を掻き分け、うなじに唇を押し当てた。 それ以上を求めず、普段より歯切れの悪いレッドの言葉にヒィッツは眉をひそめ、 「言いかけたのなら言え。」 「くだらん事だ。忘れろ。」 「お前が何か言いかけた時は、絶対その先がある。」 それは言葉にしろ行動にしろ、別の意味が。 レッドの肩がピクリと動き、ややあってヒィッツの言葉の真意を悟る。 「………何を解った風に…。」 「事実だろうが。」 間を置かずあっさりと言い切ったヒィッツの言葉にレッドは目を丸くしたが、 すぐに真剣な顔つきに変わると腕の力を抜いた。 緩んだ拘束にヒィッツが振り向こうとすると、 その前にレッドはその肩を自分の方へ引き寄せ、その身体を自分とシーツの間に取り込んでしまった。 眼の色は、雨の朝に沈む紫黒。 少し伸びた前髪が、その揺れる色を隠す。 「…俺がお前を愛してるって言ったら、お前は信じるか?」 その台詞はあまりに唐突で、窓の外の雨の様に現実味が無い。 だがヒィッツはその言葉を流してはいけないと知っている。 降って湧いたようなその言の葉は、実は水脈のように静かに流れ蓄えられていた言葉だ。 ヒィッツは一度だけ目を閉じ…右手をレッドの髪に絡めた。 そして滲んだ象牙色のその瞳でレッドの顔を見据えると、 「…私がお前を愛してると言ったら、お前は信じるのか?」 呼吸をするよりも簡単で、嘘をつくよりも重い言葉を返す。 レッドはその言葉は安易に考えてはいけないと気づいている。 まるで流水のように紡がれたその一言は、根雪のように深く、それでいて淡い。 刃物の切っ先を喉元に突きつけられた思いでレッドは思わず唾を飲んだ。 そんなレッドの髪に絡んでいた指先が、促すように動く。 ヒィッツの方から寄せられた唇は、雨に濡れた若葉の感触。 また現実味が薄らぐその感覚を手放したくなくて、 レッドはその薄絹の唇に舌を這わせた。 互いの間に伝う銀糸は雨に似ている。 その糸がふつりと切れるのを見止め、 レッドは黙ってヒィッツの胸元に頬を押し付けた。 その先を求めるような動きは無く、 まるで幼子が甘えているようだと、ヒィッツは密かに思った。 「………やっぱり雨は苦手だ。」 「そうか。」 「ああ…。」 呟いたレッドの髪に指を通すと、ヒィッツはその黒髪に口付ける。 微かに湿っているように感じたのは、雨音の錯覚。 しばしの沈黙の後、ヒィッツは雨の合間に静かな呼吸音を聞いた。 いつの間にかレッドの背中が規則正しく上下している。 それでもその腕は、しっかりとヒィッツの身体を捕らえていて。 「―――――迷惑な話だ。」 そう呟いてしまったのは、あまりに雨音が非現実であったから。 自身に縋るその腕に確かな今を感じつつ、 ヒィッツはレッドの背に腕を回した。 * * * * * ここ最近”必死なレッド”しか浮かばずに困っています。 何に必死って言われるとキリが無いのですが、 最終的にはヒィッツに関してで落ち着くってのは、 もううちのレッドなので仕方ないんですが(それもどうだろう)。 でもレッドが必死になればなるほど、どこかのズレとか行違いが大きくなる2人。 もう少し救いを見つけたいです…反省。 |