好きで抱く訳じゃない。
   これが一番手っ取り早いからだ。



仰向けのヒィッツの背がグ、と弓形になると、一際大きくベッドが軋んだ。
自然とその喉も反らされ、弱い部分を曝け出したその格好は服従の証にも思える。
レッドは口の端を歪めたが、それは決して満足した笑みではない。
そのまま背中を強引にシーツに押し付けなおすと、
真上からその顔を覗きこむように身体を折り曲げる。
かなりきつい結合部は更に締め付けられ、
ヒィッツの口から内部の圧迫に耐えかねて呻き声が上がったが、
レッドは気にするでもなく…あるいは、本当に気づかなかったのかも知れないが…
横を向きかけたヒィッツの唇を奪い、舌を絡め、無理矢理に自分の方を向かせた。
鈍痛と快楽の間で揺れる白磁の瞳は翳りを帯びている。
確かに自分の方を見ている筈のその目にレッドはやっと得心したように笑うと、
一度は緩めていた腰の律動を再開した。





何度と無くヒィッツの中に吐き出し、シーツが嫌な湿り気を帯びて2人の下で乱れても、
レッドはその上から退こうとはしなかった。
「いい加減にしろ…この馬鹿が…!」
やっと多少呼吸が落ち着いてきたヒィッツは小さく悪態をついたが、
先刻までの痴態を考えれば、レッドにとってはそれこそ笑い種だ。
だがそれを弄ることもせず、それ以前に一言の返事を返す事も無く、
レッドは黙ってヒィッツのまなじりに舌を押し当て、
反射的にその白い目が自分の方を向く事に安堵していた。



   好きで抱く訳じゃない。
   これが一番手っ取り早いからだ。
   こうしていれば、この目は、



「………お前の目って、」
レッドは咄嗟に閉じかけたヒィッツの瞼をやはり強引に舌先でこじ開けると、
「瞼、要らないよな。」
「何の話だそれは…。」
あまりに突飛な発言に、さすがにヒィッツも唖然として聞き返す。
だがレッドは薄く笑ってこじ開けた目の中の味を確認すると、
「こっちの話。」
そう呟いて、ヒィッツの左胸に手を当てた。



   抱いていれば、この目は俺の方を向く。
   瞼が無ければ、この目は閉じる事は無い。
   余計な世界はコイツの視界には要らない。
   コイツの世界には、俺だけでいい。



右手の先に思い切り爪を立てれば、グ、とヒィッツの喉が鳴る。
痛み、と言うよりは圧迫に近いそれに対する抗議。
血が滲むほど強くギリ、とその爪に肌を引っかければ、それはまた意味が変わるのだが。
「…止めろレッド…。」
言っても無駄だと言う事は解っていても、ヒィッツは同じ台詞をその都度繰り返す。
許容したと思われたくない。思いたくない。
明らかに歪んだ劣情と関係は、ヒィッツのこれまでの人生と欠片程度の道徳観念に反している。
―――――レッドが言葉すら通じない獣だと、思いたくは無かった。
「やだね。」
そして返って来るレッドの台詞もその都度同じだ。
だが、返って来ると言う事はヒィッツの言葉が通じている証拠。
ヒィッツの口から吐息が零れる。
それは落胆か安堵か。



   殺してしまうのは簡単だ。
   けれど、殺してしまったら、



レッドがまるで見せ付けるように血の付いた爪を舐めてやると、
腫れ物でも触るように歪んだ表情でヒィッツが凝視していた。
恐らくは、目を背けたい程の嫌悪。
けれど、その自尊心がそんな敗北を許す筈が無い。
「悪趣味が…!」
吐き捨てるように呟いたヒィッツがそれを理由に僅かに目を逸らそうとしたので、
レッドは顎を掴んでその唇に噛み付いた。



   殺してしまうのは簡単だ。
   けれど、殺してしまったら、
   コイツの目は俺すらも映さない。



口の端に滲んだ新しい鉄の味に、レッドは夢見るように笑う。
この味がする限り、ヒィッツの世界はレッドのものだ。
それが得られるならいくらでも貪欲になろう。
それこそ、爪の欠片髪の一筋余す事無く呑み込むほどに。
レッドは言葉も無く、ただ微笑んでヒィッツの鎖骨に口付ける。
小さく戦慄いたその胸の上下すら逃すまいとするように。



   そしてコイツの最後に残るのは、俺だけでいい―――――



自身の瞳こそが濁り歪んだ世界しか映していない事に気づかぬまま、
その目は、狂った恋をする。










* * * * *

ずっとレドヒツを書いてて、
その関係にはレッドの偏愛とか狂気の愛とかそういうイメージが強かったんですが、
『恋』する事が既に歪んだ形だったのでは…と思いついて書きました。
”殺せば俺のモノ”に行き着くのはきっともっと先の話。

恋にせよ愛にせよ殺意にせよ、
強すぎる感情はみんなどこかが紙一重。