+++ 本日のメイン


「熱ッ。」

小さくそんな声が聞こえ、レッドは顔を上げた。
ヒィッツがやや乱暴にスプーンを置き、グラスの水を煽っている。

「何。」
「いや、予想以上に熱かったんだ。」

お互いの前にあるのはシチュー皿で、今日のメインはビーフシチュー。
よく煮込んであって程よく滑らかなシチューは、出来立てで確かに熱い。

「作ったの自分だろ。」
「予想以上だったといっているだろうが。」

気恥ずかしいのもあるのか、やや不機嫌に返したヒィッツは、
火傷のせいか普段より赤く見える舌を僅かに口から覗かせている。
何だっけ、ああそうだ、猫とかよく舌をしまい忘れるよな。
そんな事をレッドが思いながらヒィッツの様子を伺っていると、
まだヒリヒリする、などと呟きながら人差し指で舌の先を突付いている。

「…なあ。」
「ん?」

ヒィッツが舌で指を、いや、指で舌を突付いたまま顔を上げると、
突然とレッドの手が伸びてきた。
何事かと避ける間もなくその指が表に出ていたヒィッツの舌を掴み、
自分の方へと引っ張る。

「痛テテテテッ!」

舌から伝った唾液がレッドの指先を濡らす。

「なにふ…!」

舌が掴まれているので上手く言葉が出ないヒィッツにグイ、と顔を寄せると、
そのまま自分の唇でその口を塞ぐ。
外に零れていたヒィッツの舌がレッドの舌で押し込まれ、絡め取られて、
顎を掴む手に変わっていたレッドの指はまた湿った。

「―――――っ…!」

やっと唇を離す間際に、レッドは行きがけの駄賃とばかりに軽くその舌先を噛むと、

「タンシチューの味がする。」

その台詞に、ヒィッツは無言でレッドの頭を殴った。










+++ 砂糖菓子のような


男のくせに、と思うのはもう何回目だったか。
レッドはヒィッツの指先を見ながら思う。

目の前で動く指は別段何か特別な事をしている訳ではない。
今は執務時間であるし、ヒィッツはキーボードを叩いて書類作成に集中している。
自分はといえば、次の任務の関係でヒィッツと打ち合わせに来たのだが、
肝心のヒィッツが指示書を出すのが遅れていた為、その作成の間時間が空いてしまった。
ただ、それだけ。
でも、ある意味貴重な。
戦場では一瞬で全てを壊す白い指先が、
自分と同じ様に作業している様子は何故か不思議だった。

自分が刀や暗器の手入れを怠らないように、
ヒィッツも自分の指には気を使う。
常に最高の動きが出来るよう細心の注意を払って、
尚且つ、自分が最上に見えるよう身形にも気をつけながら。



その指は、白く、長く、細い。



「―――――悪かったな。終わったぞ。」

そうヒィッツが言ってレッドの方に向き直ったのは、
レッドがその指に妄想し始めて数十秒後。

「…?レッド?」
「ん、あ、終わったって?」

レッドにしては珍しくぼんやりとした様子だったので、
ヒィッツは珍しい事もあるものだな、と苦笑し、
打ち合わせの前にコーヒーでも飲むか、と席を立つ。
その机上に乗せられた指ですら、レッドから見れば非常識で。



その指は、白く、長く、細い。
きっと甘いに違いない。
レッドはもう一度、噛み砕く夢を反芻していた。










+++ ふたつの巻貝


どれだけ僅かな溜息ですらレッドの前では無意味で、
今日も今日とて理不尽な我侭に小さく悪態をついたところで、
うるせェ、と不機嫌な一言と共に右拳が飛んできた。
地獄耳、というのはレッドの耳の事だろうとヒィッツは本気で思う。

けれど、レッドの微かな呼吸や小さく舌打ちした子供の様な態度、
そんな些細な事が聞こえるのも確かに自分の耳で。
そしてそんな時はどんな言葉も無意味だと解っているので、
ヒィッツは黙ってレッドが浮かび上がるのを待っている。
深海の底から戻ってくるような呼吸音は、長年の付き合いで耳慣れてしまった。

「お前さぁ………。」

その夜何度目かのキスの後、シーツにヒィッツの身体を止めてしまったレッドは小さく問いかけ、
けれどその続きは口に出さない。
ヒィッツは汗で湿ったレッドの髪に指を通すと、
出来の良いその鋭い耳元に唇を寄せ、

「まあおそらく、お前と同じ理由だ。」

そう囁いて戯れにレッドの耳に噛み付くと、
痛ェな、と上機嫌な声がヒィッツの耳元で笑った。










* * * * *

SSになり切れなかったSSS。
身体的な特徴ってのはネタにしやすい分、ありがちネタになるので、
なんとかそれを打破できないか挑戦して玉砕。

もっと事細かに書いてたら本当にキリが無いんだろうな…。