| 仕方がないよな、とレッドは思う。 堪え忍ぶが忍の道、と教え込まされてきたのは今は遠い昔だ。 絶対的な力を持った瞬間から、そんな不健全な思考は捨ててしまった。 自分の感情に正直である事はある意味美徳ではないのか…そう理由づけて。 隣で眠るヒィッツは”倒れている”と形容してもいい。 うつ伏せで顔はほとんど見えないくせに肩を薄い毛布から覗かせているのは、 本人の自覚のない誘惑だと思う。 そしてほんの数十分前まで、レッドはその誘惑に文字通り”乗っかって”いたところだ。 眠っているヒィッツの顔には確かな疲労の色が見える。 ふと目をやると、部屋の薄明かりにぼんやりと浮かんで見える肌の色。 白人特有のその色は、レッドが今まで見てきた肌の中で一番鮮やかだと思う。 もっとも、これまでにそんな肌の色をじっくり見つめる機会なぞ片手で数えるほどしかなく、 しかも大抵は女であり、男の肌の色を観察することなんて無かったのだから、 必然的に比べる対象は狭まれてしまうのであるが。 そんな自分とは質の違う肌に、幾つもの色。 首筋の赤い鬱血の跡は今日まさに先刻つけたもの。 毛布から覗く左肩から腕にかけての青痣は、昨日不意をついて殴りかかった時の殴打の痕だ。 結果は同じ色に変わるものであるのに、付けた経緯はまるで違う。 レッドの感情の波の証拠が、ヒィッツの身体には数え切れない程刻まれては、 その重ねた月日に消えていた。 理不尽な暴力と愛玩を繰り返す自身の行動にふと疑問を抱く事もあるレッドだが、 それを何故かと問われれば、 それこそ自分の感情に正直であるから、としか言いようがない。 昨日は今は原因も忘れた程度の事で互いに取っ組み合いになったし、 今日は今日で、隣に立ったヒィッツの髪から覚えのあるシャンプーの香りがしたから、 つい抱き寄せてしまっただけの事。 もっとも、今日のような経緯の時は、お互いが同じ男である以上、 世の男女間のような甘い空気とは程遠い。 抱き寄せた腕は一度は振り解かれ、 「突然何をするか!」 「うるせぇバカ!」 と、芸の無い言い争いが繰り返された後、 最終的には接近戦に強い自分の身体能力を無駄に活かして、力づくでベッドに転がした。 ―――――もっとも、レッドがヒィッツを抱く時はほとんど同じ様な経緯なのだが。 互いに互いを意識するという点では、ケンカもセックスも一緒だ。 殴れば殴り返され、優しくしてやれば相応の感情が応える。 自分が動く事で相手の反応が変わるのは当然だが、 どちらもお互い目の前の相手しか目に入らなくなる、という点では、 正反対のようで実は同じなのかも知れない。 改めてその跡を目で下から上へと辿りながら、レッドはヒィッツの顔を見た。 眉間に僅かに皺が寄っていて、眠っているのに穏やかには見えない。 普段の高飛車な態度を考えるとその苦悶の表情はレッドにとって愉快だった。 同時に、こんな顔をするのは自分の前だけであるという事、 そしてこんな顔を知っているのが…おそらくは、ヒィッツ本人も知らない… 自分だけであるという事、その事実はレッドの優越感を満たした。 何とはなしに、レッドはヒィッツの頬を指先で押してみた。 少し弾力のある白い肌が僅かにへこんだように見えて、 子供の悪戯が成功したかのようなささやかな達成感が沸く。 レッドは思わず吹き出しそうになったが、 ヒィッツが小さく身動ぎしたのが見えたので何とか堪えた。 起きたところで何がある訳でも無いのだが、 不機嫌な白磁の目が空ろなままで自分に背を向ける事を想像し… その態度に腹を立てて殴るであろう自分が予想できたからだ。 バカらしい、と思う。けれどそれは確信に近い。 そこまで考えたところで、ゆるゆると睡魔が身体を包んでいくのをレッドは感じた。 薄い毛布はセミダブルのベッドサイズに合わせてあるので、大の男2人にはゆとりは無い。 水を吸った海綿の様に重くなってきた身体をヒィッツの横に滑らせるように潜り込ませ、 形だけは布団に入る格好で場所を落ち着かせる。 目の前にあるオレンジの髪は普段からは想像出来ない程に乱れていたが、 微かな匂いは確かにヒィッツのもので、レッドは何故か安堵した。 明日、ヒィッツに対する感情は、はたしてどちらのベクトルに向くのだろう。 霞のかかる思考の中、レッドは思う。 どちらにせよその目が自分の方だけを向いているのならば、レッドはそれで満足なのだが。 * * * * * ノートの端にメモのつもりで書いてあった話をサルベージ。 ちょっと修正・加筆、そして改題しました。 忍者としての本来の役目を全うしていた時期があるのか解りませんが、 もしあったのなら耐える事や物事への執着とか固執ってのは無かったと思うので、 レッドのこの感情の爆発は”絶対”を得た後のBF団に入ってからかなと。 ついでに言えばヒィッツと出会ったとか知ってからだったらもっといい。 (※超個人的見解) |