| 同じ男のくせに、と、レッドは思っていた。 今自分の執務室で…珍しく…資料を確認に来たヒィッツは、 形ばかり並んだ書棚の前でその姿勢を崩さない。 ただ立って、資料をめくっているだけである筈のこの男は、 いつだって自身の目の前でどこか誘うような雰囲気を滲ませている。 勘違いだと言われてしまえばそれまでかもしれないが、 一度そう思ってしまった印象は拭い去る事は出来ず――――― 結果として、レッドはヒィッツのその身体つきを目にする度に先述の台詞を心の内で繰り返す。 それは単純に目を引くとか、それだけで済まない。 目にする回数を重ねる度、普通なら有り得ないどす黒い感情もまた首をもたげる。 それが”欲情”となるまでに時間はかからず、 いつかは、という曖昧な言葉で自身を誤魔化しながら、レッドはその肢体を手にする様を想像していた。 今もまた然り。 デスクの上に多少散乱していた紙束を整理するふりをして、 レッドの目は書棚の前のヒィッツの服を引き千切っている。 「―――――何だ?」 視線に気づいたのか、ヒィッツが振り向いてレッドの顔を見た。 「別に。」 突然と視線をそらすような真似はしない。それほど間抜けた役者ではない。 だがヒィッツはふぅん?ともう一度レッドの顔を見直すと、 「その割に、長い間見られていた気がしたが。」 「自意識過剰なんだよ。」 そこでやっとレッドは視線をそらした。手の中の書類を引き出しにしまう事で。 ヒィッツは小さく肩をすくめ、書棚の正面へと姿勢を戻す。 レッドの目はまたそこでヒィッツの姿を追う。 だが。 「………ニンジャのクセにおかしなところで不器用だな。」 ヒィッツがクルリと振り向いた。 「!!」 今度は咄嗟に視線をそらしてしまう。これでは見ていたと認めたと同じだ。 ヒィッツは手にしていた資料の背を指で軽く叩いたが、 不意に「ああ、そうか。」と呟き、その資料を戻してしまった。 何がああそうかなのかとレッドは思ったが、問いただす前にヒィッツはレッドのデスクの方へとやって来る。 その歩き方ですら扇情的だと、レッドはぼんやりと思った。 「………つまり、こういう事だろう?」 傍らまでやって来たヒィッツは薄く微笑むと、レッドの顎に指をかけた。 「何が…、」 と、言いかけたレッドの唇が、予想よりも柔らかい感触で塞がれる。 ―――――”それ”がヒィッツの唇だと気づくのには少し時間がかかったが。 驚いて目を見開いたレッドの顔を見止め、また突然とヒィッツは唇を離すと、 「今日はひどく気分がいい。」 そう言って、レッドのデスクに腰をかける。 男にしては細めの、それでいてしっかりした綺麗な指先を軽く舐め、 その先を期待させるかの様にゆっくりと足を組むと、 「私を本気で踊らせてみるか? そうすれば相手をしてやらん事も無い。」 「この―――――ッ!」 レッドは思わずその口元で濡れて光る手を掴んだ。 だが、ヒィッツは笑ったままその手を弾き、 「嫌なら別に構わんさ。」 その指をネクタイに引っかけるように止める。 「これは私の厚意だからな。無理は言わんよ。」 言い回しに反比例して、その手はレッドに見せつける様にネクタイを解いていく。 微かに聞こえた衣擦れの音に、レッドの喉が小さく上下した。 ”そうしてやりたかった”欲望が、今、目の前にある。 振って湧いた現実味の無い出来事に、レッドは軽く眩暈を覚えた。 「フン…声が出ないなら態度で示してもいいぞ?」 そう言って、クイ、と組んでいた足先を上げる。 普段のレッドならとっくに殴り飛ばしている。 だが、今日は何故か抗らえない。 そんな小さな自尊心など、この”厚意”の前には塵に等しい。 「さあ?」 大袈裟に肩をすくめ、ヒィッツは両手を広げて見せた。 「〜〜〜〜〜ッ…!」 レッドはギリ、と歯を食いしばったが、それは一瞬の時間稼ぎにしかならない。 そのままやはり声を出す事が出来ぬまま、レッドはヒィッツの目の前に膝をつくと…その靴の先に口付ける。 ヒィッツの目が、本心から愉快そうに笑った。 ※ ※ ※ ※ ※ デスクから降りたヒィッツはレッドを椅子に座らせると、もう一度自分から口付けた。 今度は自分からも応えて来るレッドの舌を絡め取りながら、 その左手をレッドの胸から腹部、そして下腹部へと滑らせていく。 スラックスの上からレッド自身に触れると、ヒィッツの腰を支えていたレッドの腕が僅かに動いた。 その反応にヒィッツは軽く口角を上げ、 「そう急くな。」 囁き、レッドの足元に今度は自分が膝をつく。 レッドの目がそのままヒィッツを追うと、ヒィッツはチラリとレッドのその視線に応えて見上げ、 挑発的な笑みを浮かべたままレッドのスラックスのファスナーに歯をかけた。 ジジ…ッ、と金属の擦れる音が小さく響き、 レッドの見ている前で、ヒィッツは立ち上がりかけていたレッド自身に布の上から舌を押し付ける。 生暖かい圧迫と布の感触がレッドの背筋を震わせた。 声は立てなかったものの、爪が椅子の肘掛に食い込んでギリ、と音を立てる。 ヒィッツは気づいているであろうその変化にそ知らぬふりをして、 立ち上がったレッド自身をそのまま吸い上げるように自身の口腔に含んだ。 「―――――…!!」 肘掛がもう一度悲鳴をあげる。 ヒィッツはチラリとレッドの顔を見上げた。 その光景はレッドが夢想した光景に近かったが、それよりも遥かに刺激的だ。 レッドの食い入るような視線に戸惑うことなく、ヒィッツはそのままレッド自身を摺り上げる。 舌の絡んだ水音が小さく響いたが、レッドの耳には何十倍にも大きく聞こえた。 「ン…っ、はぁ………。ンむッ…!」 思わず上がったのか煽るための演技か、 ヒィッツは微かに声を口の中で含ませながら舌と手でレッド自身を高めていく。 ピチャピチャと犬が水を舐めるような音は更に大きくなり、 自身がヒィッツの口を犯しながら薄く濡れそぼって行く様子は、 レッドの視覚的にこれまでに感じたことの無い興奮を与えた。 そしてそれがまた彼自身に影響し、結果としてヒィッツの唇はレッド自身で塞がれる。 満足そうに目を細めたヒィッツは一度舌先で清めるようにその先端を舐めると、 「このままイくか?それとも…、」 そう言いかけたヒィッツの身体を、レッドは思わず床に押し倒してしまった。 どうしても”そうしてやりたかった”熱が身体中を巡って止まらない。 押さえの利かない初心な少年の様に、レッドは次を求めた。 ―――――だが、次の瞬間。 「気が早いぞ、犬が!」 ヒィッツの左足が上がり、レッド自身を根元から押さえつける。 「ぐッ…!」 これには流石にレッドの喉の奥からくぐもった声が漏れた。 靴底の感触と痛みに息が止まるが、だがどこを作用したのかその感覚で果てる事は無く、 却って煽られた熱がその一点に集中するのみだった。 「最初に言っただろう。私を本気で踊らせるのなら相手をしてやる、と。」 足はそのままに、ヒィッツはシャツのボタンを外すと、 「満足させられたら入れさせてやるさ。」 そう囁き、やっと足を離して身体を起こす。 「お前次第だがな?」 再び、デスクの上に腰をかけてレッドを誘う。 ※ ※ ※ ※ ※ 普段なら神経質な程に服にも気を使うヒィッツだが、 今、彼のスラックスは無造作にデスクの下に放り出されている。 レッドは自身がまだ、否、これまで以上に怒張してるのを感じていたが、 それを鎮める術を請うが為に、ヒィッツの白い肌に赤い花を散らしていく。 朱鷺色に染まり隆起した突起を舌で突付くと、初めてヒィッツの唇から溜息が漏れた。 その唇に噛み付くように口付けると、レッドはヒィッツ自身に手を滑らせた。 僅かに変化の起き始めているそれは確かに自分と同じ男を確認させたが、 その先へ進みたい欲望は収まらなかった。 ヒィッツの片足を自分の肩に乗せ、レッドはこじ開けたヒィッツの中心に舌を伸ばす。 男にしては滑らかな内腿に歯が当たると、小さくヒィッツの身体が震えた。 そのまま歯の跡にも舌を這わせ、甘噛と愛撫を繰り返しながらレッドもヒィッツ自身を高めていく。 体温を確かめたくて無意識に空いた手をヒィッツの胸に伸ばすと、 弾かれたようにヒィッツの背が反った。 「ンンっ!」 耳に届いたその声もどこか切ない。 下手な女よりよっぽど…などと、レッドは喉を鳴らした。 同時に自身が限界に近い事を感じ、レッドはチラとヒィッツを見やり、その先端を軽く吸い上げる。 一瞬だけ息を呑むように喉が動いたのが見えたが、 ヒィッツは上気した顔でレッドの視線に応え、笑いかけると、 「そうだな…これなら許してやってもいいな。」 そう呟くと、少し身体をずらしてレッドを受け入れやすい位置に移動する。 チラと見えた赤い舌先を追ってもう一度レッドが唇を重ね、舌を絡めると、 ヒィッツが頬を包むように手を添え、数センチの距離で囁く。 「ここまで”待て”が出来たならよしとしようか?」 少し閉じるような上目遣いが、妖しく微笑んだ。 「ご褒美だ…いいぞ。」 ”そうしてやりたかった”欲望はいまや”そうしたい”欲望に摩り替わっていた。 だが、今のレッドにとってその変化はもう問題ではない。 餌を与えられた犬のように、レッドは性急にヒィッツを求め、自身を突き立てた。 想像よりもずっと熱くきつい締め上げは、 今までの現実よりも遥かにレッドを高ぶらせ、すぐに次をと飽くない欲求に変わる。 ヒィッツを穿つ度に自分の呼吸や感覚が獣に近づくような気すらしたが、 それは自身の下で喘ぐヒィッツの吐息も同じ事。 二人分の体重でデスクがギシギシと軋んだが、 その音ですら今は耳を犯す刺激にしかならない。 「クッ………!」 「ン………あン……ッ…!」 限界に近くなったレッドが一度腰を引くと、ヒィッツの手ががレッドの背を抱えるように回される。 それを合図に穿った次の瞬間、レッドは目の前が眩むほどの快楽に襲われた――――― ※ ※ ※ ※ ※ ………肩で息をつきながら、レッドは耳に響く鼓動に何故か満足を覚えていた。 その顎に指が伸びてきて、促され顔を上げると、自分の下で笑うヒィッツの顔。 汗で濡れた肌が上気して、自分の付けた跡が更に赤く色づいているのを見とめると、 レッドは自分の中に新たな”欲望”が芽生えた事に気づく。 「…満足したか?」 まだ自分の優位な位置を確信しているヒィッツは、乱れた前髪を軽く上げながらレッドを見つめている。 その唇に再度唇を合わせても、ククッ、と小さく苦笑したような声が漏れる程度にしか思わないらしい。 だが、レッドの方は違う。 ”そうしてやりたかった”は”そうしたい”に、 そして”手に入れたい”欲望に姿を変えた。 ―――――この日、初めて笑ったレッドの目は、その底で新たな獣を宿していた。 * * * * * 【おひょい】のパルワルドさんに相互リンク記念で書かせて頂いた…のですが… 記念SSでがっつりエロってどうなの自分…。 リクエストは 『大人の余裕を(めずらしく)みせるヒィッツと、 それについ翻弄されるレッドで。誘い受けな感じ』 だった筈なんですが、誘い受けと女王様を間違えた気がします(うわぁ)。 しかし伊達、アイドル、お兄ちゃん、姫、ときて女王様… うちのヒィッツはどこに行ってしまうんでしょうか(聞くな)。 でも今までに無いシチュが書けて勉強になりました! パルワルドさん、今後共よろしくお願いします! |