| ※ ※ ※ ※ ※ 「………なので、皆様本当にお忙しそうで…。」 「ふむ?残月や幽鬼、怒鬼はともかく、レッドまでそんな仕事を熱心に?」 4人が計画の為に奔走しているある日の事。 サロンでまたティータイムを過ごしているのはサニーとヒィッツである。 「通りで私の方にペーパーワークしか回って来ない筈だ。 実働部隊で4人も十傑集が動いてしまっているのではな。」 ヒィッツは今日はストレートティーだったが、やはりあまり口はつけていない。 「ヒィッツ様の方は大丈夫なのですか?」 サニーはオレンジジュースのグラスをコースターに置くと、意外そうに訊ねた。 「ああ。4人がそれだけ動いているとなると、私の出来る事は限られてくるからね。もっとも―――――。」 ピピッ、ピピッ、ピピッ! 何かを言いかけたヒィッツの声を、電子音が遮った。 「やれやれ、無粋な事だ。こんなレディを前にして行かなくてはならないとはね。」 そう言って、大袈裟に肩をすくめて見せる。サニーは思わず笑ってしまったが、すぐに慌てて、 「ヒィッツ様もお仕事だったのですね。ごめんなさい、お忙しい時に…。」 電子音は時計のアラームだ。ヒィッツがある程度時間を気にするとすれば、仕事でしかない。 「なに、息抜きは大事さ。ましてお嬢ちゃんとのお茶なら尚更だ。」 それに、とヒィッツは付け加え、 「4人の話を聞けたおかげで、私の今後の予定が決まったようだ。」 「?」 解らない、と首をかしげたサニーの頭をヒィッツはそっと撫で、 「なに、こっちの話さ。」 そう言って、困ったように微笑んだのだった。 ※ ※ ※ ※ ※ ヒィッツとサニーがお茶を交わす、数時間前―――――。 「作戦や滞っていた仕事が片付くのは良いのだが…また何を始める気なのだ、あ奴らは…。」 参謀室…孔明の執務室で報告書に目を通しながら、樊瑞は苦い顔である。 急に4人に下っていた任務や業務が片付き始め、それどころか次の仕事は次の任務はと急かされる。 しかも今回はやみくもにこなしているだけでなく、全部事後作業や報告書まで完了させて、なのだ。 きちんと仕事をこなされている以上文句も言えず、 結果としてBF団内の執務はまたもやこの数週間で半年以上先の予定まで終わろうとしている。 孔明は黙って何やらモニタを見ながらキーボードを叩き、 ボードにタッチペンで自身のサインで何やら命令を挙げると、 「まあ何となく予想はついてきましたがね…。」 「!本当か孔明?!」 「十傑集の若手、しかもあの4人のみが ここまでまとめて仕事をこなしていくなど、裏がある以外に無いでしょう。 おそらくは長い休暇を全員でまとめて取りたい、とかその辺りかと。」 「〜〜〜〜〜!あの者共は………!」 樊瑞は怒り半分、失意半分で肩を落とした。 孔明は羽根扇で口元を覆うと、 「まあ、確かに任務や仕事は完璧にこなして頂いたようですし、 休暇が欲しいというのなら差し上げようじゃありませんか。」 「な…!孔明?!お主本気か?!」 「なぁに、」 その時になって、樊瑞は初めて孔明の額に青筋が何本も浮かんでいる事に気がついた。 「予定外の支出、想定外の費用、計画外の諸経費―――――ここまで使わせて頂いたんです。 しっかり”お礼”させて頂かないと、私の気が済みませんからな!」 BF団の主夫………もとい、最高司令官は、努めて声を落ち着かせながら言ったのだった。 ※ ※ ※ ※ ※ さて、今度はサニーがヒィッツと別れて数十分後―――――。 「やあ久しぶりだねぇサニーちゃん!」 「セルバンテスおじ様!」 サロンに突如として現れたのは、ここ数週間本部を空けていた『眩惑のセルバンテス』。 トレードマークのクフィーヤをなびかせ、サニーの元へと満面の笑みでやって来る。 座っても?というジェスチャーに笑顔でサニーが返すと、残されていた紅茶を見て、 「白昼か素晴らしきでも居たのかね?」 「ええ、ヒィッツ様が先程まで。ですがお仕事で…。」 「ふぅん?」 そう言って、ほんの少し何事かを考える仕草を見せた。 実はここ数週間の本部の動きに、自身の任務が少し早まった事に疑問があったのだが、 自分付きの部下からの情報、そして戻ってきてからの内部の様子に、大体の予想はついたようだ。 「そうすると…また休暇になるだろうねぇ…。」 「?何かおっしゃいました?セルバンテスおじ様?」 呟いた一言はサニーの耳には聞こえなかったらしい。 いやいやこっちの話さ、とセルバンテスはニッコリ笑い、 「どうだいサニーちゃん、こちらは暑いし、もう少し過ごしやすい国へ旅行にでも行かないかい?」 「えっ?…でもおじ様、お仕事は…?」 「なぁに、先だっての仕事でおじさんの任務は終わりさ。 なんだったらアルベルトも来るように伝えよう。どうだい?」 久しぶりに父親に会えるかもしれない、と、サニーの顔が明るくなる。 その顔を同意と取ると、セルバンテスはまたニッコリと笑ったのだった。 ※ ※ ※ ※ ※ さて、孔明の命令で十傑集に召集がかけられたのは、その翌日。 あいにくロシア支部への査察で出ているアルベルトは欠席であったが、 それ以外のメンバーは全員空中円卓に顔を揃えている。 「さて、今日皆様方に集まって頂きましたのは、このBF団の現状報告に関してです。」 孔明はざっと視線を流した。 カワラザキは何とはなしに幽鬼の方を見つめている。 当の幽鬼がこの数週間でまた細くなったからだ。 しかしながらその状態はレッドや残月、そして怒鬼も同じ事で、 何でもないという顔をしているものの、傍目にも痩せたというのがわかる。 これには十常寺も少々驚いた顔を見せたが、 セルバンテスがニマニマと笑っている様子を確認すると、何事か悟ったらしく小さく溜息をついた。 そして溜息をついているのはリーダーである樊瑞も同様だったが、 その溜息は妙な計画の為に痩せ細った面々へのものではなく……… 孔明に対しての溜息であった。 「ここ数週間で、十傑集…特に一部の若い方々のおかげで、 我がBF団の計画は向こう半年以上の分が終了しました―――――感謝、致します。」 最後に含みがあった事に気づいたのは、樊瑞とセルバンテスのみ。 「そこでそのお礼と言ってはなんですが、 日頃の激務を労わっていただくために、本日より長期休暇を差し上げたいと思います。」 声には出さなかったが、4人の視線が瞬時に交わされ、「よし!」と頷く。 自然と笑みが浮かんだのは、自分達の思惑通りに事が運んだからだ。 だが、次の瞬間、4人の表情が固まった。 「しかしながら執務の量を考えて、全員が長期休暇と言うのも不公平。 よって今回の休暇取得者は大変頑張って頂いた マスク・ザ・レッド殿、直系の怒鬼殿、白昼の残月殿、暮れなずむ幽鬼殿、 そして先日まで本部を空けていた眩惑のセルバンテス殿、以上5名のみといたします。」 「何ィっ?!」 「―――――!!」 「な…!まさか…っ!」 「えっ………!」 4人の計画は、着眼点は良かったのである。 『孔明を怒らせた事』と、『ヒィッツに黙って事を進めようとした事』を抜かせば。 そして孔明の言葉は更に追い討ちをかけるように続く。 「あと大変申し訳ないのですが…素晴らしきヒィッツカラルド殿。 作戦関係が早まった関係で、貴殿にお話ししていた任務の計画も早まりました。 よって本日午後より作戦実行の為、北欧支部への出向をお願い致します。」 「了解。」 孔明の台詞に驚きもせず、いともあっさりと任務を受けたヒィッツは4人に向かって肩をすくめてみせ、 「………と、言う訳で私はこれから任務になってしまったようだ。 あいにくと土産は買って来れないが…君達がどこかへ行くのなら、手土産の一つも頼むよ?」 そう言ってニヤリと笑った顔は―――――普段滅多に見られない、ヒィッツの”不機嫌な時の”笑顔だ。 「ま、待てヒィッツ!」 「誤解だ!我々は決して私利私欲の為に動いていた訳では…!」 「これはその………!」 「困らせるつもりじゃ無かったんだ!本当は……。」 慌てて弁解しようとする4人だが、全ては後の祭り。 ヒィッツはほんの一瞬、僅かに寂しげな笑顔を作ると、 「今度からは…妙な策を巡らせる前に一声かけてくれ。 別に私は無理にお前達の邪魔をする気は無いからな。」 『『『『誤解だ―――――っ!!』』』』 4人の心の叫びは、邪魔者扱いされたと勘違いしているヒィッツには届かない。 「北欧支部なら私の別荘を拠点にしたらどうだい?素晴らしき?」 何故か上機嫌で割って入ったのはもう一人の休暇取得者、セルバンテス。 「丁度向こうに避暑に行こうと思っててねぇ、サニーちゃんも連れて行くんだよ。 君が来てくれればサニーちゃんも喜ぶだろう。」 「そうなのか?それはありがたい申し出だな。北欧支部のベッドは少々硬くてね。」 「ハッハッ、なら決まりかな?」 セルバンテスが孔明の方を見やると、無言で承諾を返す。 「ならば、出立の準備があるので私はこれで失礼しよう。 4人とも、せいぜい楽しい休暇を送ってくるがいい。」 そう言い捨ててもう一度笑うと、ヒィッツはわざとらしく右手を振って空中円卓を後にする。 「私も準備があるからもう行くよ?そうそう、サニーちゃんも早く呼んであげないとだねぇ。」 セルバンテスも芝居じみた言い回しを披露しながら下がった。 十常寺はもう付き合っていられない、と既に消えていたし、 樊瑞は胃を抑えつつ無言で下がる。 カワラザキは多少幽鬼に同情の眼差しを向けたが…軽く首を振ると、やはり無言で姿を消した。 「まあ、これもBF様のご意思と思いなさい。」 絶対にありえないが全てが片付く魔法の言葉を残し、孔明もさっさと引き上げる。 そして残ったのは―――――長期休暇を貰ってしまった件の4人。 「………どこが間違ったんだと思う?」 「休暇をもらえた所までは間違っていなかった、な?」 「つまり、根本的な問題は………。」 「隠し事は上手くいかない、か…。」 全員が一斉に顔を見合わせ、盛大に溜息をつく。 あらぬ誤解までヒィッツに与えてしまった今、 彼等はこれから始まる長期休暇を考えるだけで気が滅入ってくるのだった。 * * * * * 特命さんから17000キリリクを頂きました! リク内容は、 『サニーちゃんの前で繰り広げられるレッド・怒鬼・残月・幽鬼のヒィッツ争奪戦』 だった訳ですが…争奪戦にはならなかった…ですね(汗 本人はサニーちゃんとヒィッツが書けて大変満足したんですが、 純真なサニーちゃんを前に表立って動けなかったのは、 4人が、というより私がチキンだからです(爆 特命さん、申告ありがとうございました! |
| ←BACK |