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「”計画”―――――?」
思いもよらない単語に、ヒィッツは聞き返してしまった。
だがカワラザキはそれも予想していたのか、一度静かに目を閉じると、
「………話はもう一度、『悪魔』が出現し始めた頃に遡る。
 君は今までの話で『悪魔』の素因が現れたのはほんの少し前…
 少なくとも”東京大破壊”より数年前程度に考えなかったかね?」
「………違いましたか。」
ヒィッツは戸惑いながら答えた。
確かに自分が考えていた過去はここ数十年程度で想像していたのだ。
「『悪魔』の時間と人間の時の流れを一緒に考えてはいけない。
 素因は遥か昔の…それこそ君達が歴史として学習する古代より存在する。
 今はもう過去の遺物やおとぎ話程度に伝えられている”召喚方法”も、
 結果として方法が遠回しで効率が悪かっただけで、
 今のCOMPのプログラムや、邪教の館で使用される機械と何ら変わる事は無い。
 ただ、『悪魔』が具現化するには人間の精神力に限界があった。それだけの事なのじゃよ。」
カワラザキはまるで独り言の様にそこまで語ると、もう一度溜息のように一つ呼吸をした。
疲労の色と言うよりは言いよどむ様なその様相に、ヒィッツはまた胸騒ぎがする。
「―――――遠回しと言えども当時の研究ではそこまでが精一杯。
 後はその術を使う人間…魔導士とか召喚士とも言う…それの力量にかかっておった。
 ほとんどの場合は微細な能力を持った『悪魔』しか具現できず、
 しかも術自体が皆の共有の知識なのだから同じ様な『悪魔』しか現れない。
 だが―――――。」



とある一人の魔導士が、『悪魔』を具現化する為の方法に一石を投じた。



「彼は魔導士や召喚士個人の力で『悪魔』の具現化を行うのには限度がある事を唱え、
 それを解消すべく、一度全ての魔導士達の能力を注ぎ込んで、
 一体の力の強い『悪魔』を具現化するという事を思い立った。
 そして創り上げた強力な『悪魔』の精神力を核とすれば、
 もっと多くの『悪魔』を具現化出来るのではと…。」

邪教の探求に行き詰っていた魔導士達は、その実験を実行に移した。

「実験は成功し、魔導士達の能力によりある意味完全な『悪魔』が造られた。
 その『悪魔』こそ、この世界で最初の”ナガレモノ”―――――
 我等が主君にして創造主…ビック・ファイア様じゃ。」

その姿はニンゲンと全く変わらず、『悪魔』の様に脆く儚い存在でもない。
無蔵とも思える精神力と圧倒的な能力を兼ね備えた、まさに魔導士達の”最高傑作”だった。

「じゃが、魔導士達の予想し得ない事態が起こる。
 ビック・ファイア様を造り出した魔導士達のほとんどはこの世界を憂い、嘆いていた者達。
 そんな彼等の増幅された精神力で具現化されたビック・ファイア様は、
 それまでの『悪魔』にありえなかった自我を持ち、自身の為すべき事を考えられたのじゃ。」



『世界は破滅への道を歩み始めている。
 全ての魂の救済の為、真の魂の力を正しき道へと導かねばならない。』



「ビック・ファイア様は魔導士達の目指す『悪魔』の具現化を止め、
 自らと同じ卓越した能力を持つ亜種の悪魔…ナガレモノを創造された。
 間違った道を歩み始めた世界を導く為にな。」
「待って下さい、カワラザキ殿。」
ヒィッツは困惑した表情で口を挟んだ。
「今のお話では、”ナガレモノ”は一部の人間が造ったと言う事でしょう。
 いくら強大な能力を持っていたとはいえ、それに勝手をさせるほど、
 魔導士達に計画性が無かったとは思えないのですが…。」
「勿論、君の言うように魔導士達もそれほど無計画では無かったとも。」
しかしカワラザキはこれまでに一度も見せた事の無い厳しい目を見せると、
「じゃが…その魔導士の中に、ビック・ファイア様に忠誠を誓った者がいたとしたら?」
「自分達が”造り出した”モノに…?」
ヒィッツの驚きはもっともである。
人工的に生み出されたモノに忠誠を誓うなど、それはまるで偶像崇拝ではないか。
「儂等ナガレモノはビック・ファイア様がその御手と御力で創り出して下さった姿。
 そのご恩は忘れる筈も無いし、忠誠を誓う事に何のためらいも無い。
 この世界そのものを憂うビック・ファイア様のお気持ちも良く解る。
 じゃが『彼』は―――――。」

「ちょっと待てジジイ!そんなヨタ話が全部信じられると思うのか?!」

突然と部屋に響いた声にヒィッツが驚いて振り返る。
いつの間にやって来たのか、振り向いた先の薄暗がりから複数の影が現れた。
「レッド!幽鬼!怒鬼!無事だったのか?」
思わずヒィッツが駆け寄ると、レッドは口角を上げ、
「当たり前だろ!俺達を何だと思ってやがるんだよ?」
そう言って、ヒィッツの肩を掴んで自分の方へと引き寄せる。
だがすぐにその目はカワラザキの姿を見据え、
「俺達が創られた悪魔だと?
 そんな事がにわかに信用できると思うのか?」
「………失礼だが拙者も同意見。カワラザキとやら。」
レッドの後ろから進み出た怒鬼もその隻眼を細め、
「確かに拙者達は過去の記憶が無く、
 手がかりは同胞である貴殿や先の残月からの言葉に頼らざるを得ない。
 だが、それでは何故記憶を失くしているのが拙者達だけで、
 貴殿等は真実を知り得ているのか。その説明はどうなさる?」
「そういう事だ。条件が同じナガレモノなら、俺達だけ記憶が無いのはおかしいじゃねぇか。
 ましてや…ニンゲンであるヒィッツはますます関係無ぇ。
 何故ここまで俺達を巻き込むんだ?」
「爺様………。」
レッドの言葉に続くように幽鬼は呟くと、一人カワラザキの元に歩み出る。
その表情には混乱と戸惑いがありありと浮かび、
今まで過ごした経験上、カワラザキの言葉が嘘ではない事も気づいている。
「―――――すまぬ、幽鬼。」
カワラザキは目を伏せ、心からの後悔と苦悩を滲ませながら呟いた。
「いや…もうこの事実は幽鬼だけの話ではない。
 君達若いナガレモノが記憶を失ったままこの東京に散る事になった理由、
 そしてヒィッツカラルド君、君が記憶のないまま保護される事になった原因。
 全てはあの日、ビック・ファイア様の為の計画が発動された為なのじゃ…。」














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