| ※ ※ ※ ※ ※ 迷宮の内部もクォーツが立ち並び、その光景は美しいが圧巻である。 途中出現した悪魔達は普通のダンジョンの悪魔達より手強かったが、 シブヤの時の様に倒れても復活する兆しはなく、 能力を解放された状態の3人にはさほど苦戦を強いられるところまではいかなかった。 「………なんだ、行き止まりか?」 いくつかの部屋を抜け、一つの空間に足を踏み入れると、 そこは先刻まで通ってきたような場所とは違った造りになっていた。 クォーツのドアはあるのだが、なにやら模様を象った石が光っており、 近づこうと何をしようと開く事が無い。 迷宮の最初のようにレッドが刀を抜いてもそれは同じで、クォーツにはひび一つ入らなかった。 「迷宮と言う割にほとんど一本道だと思ったら、ここからが本番か…。」 「チッ!謎解きでもしろってか?ゲームじゃあるまいし!」 レッドは苛立ちをぶつける様に足元のクォーツを蹴り崩した。 「………どこか抜け道でもあればいいんだが…。」 そう呟いた幽鬼は、静かに右手を前に伸ばした。 どこからか湧き出すように現れた蝶が、数を増してその手元に集っていく。 そのまま幽鬼が左手を口に当て、号令のような指笛を鳴らすと、 クォーツの灯りに羽を煌かせ、一斉に蝶が散開した。 だが、使役の蝶はそれこそクォーツの隙間から扉の継ぎ目まで調べて回ったが、 特に抜け道や隠し扉がある様子も無かった。 「くそッ!こんな所で油売ってる場合じゃねぇんだよ俺は!」 レッドが叫び、一つの扉に向かって右手を翳す。 突然と激しい業火が燃え盛ったが、やはり結果は同じだった。 「落ち着けレッド。残月は興味だの力を見たいだのと言っていた。 つまりはこの迷宮は抜ける為に何らかの鍵がある筈。」 「鍵も何も知るか!力が見たいってんならタイマンでも何でも張ってやる!」 怒鬼の言葉にレッドはますます声を荒げた。 その時。 「…!おい2人とも!あれを見ろ!」 蝶を操っていた幽鬼が一点を指す。 そこには他のクォーツと何ら変わらなさそうな、小さな柱型のクォーツが生えていたが、 蝶が近づいた時だけ、その先端が光を増した。 「あれは…!」 「どうやらこの迷宮は全てあの水晶が鍵の様だな。」 急いで3人が駆け寄ると、そのクォーツはやはり一見普通の石にしか見えない。 だが幽鬼がそっと手を伸ばすと、先刻より眩い光がその先から発せられた。 その光は3人を包み、空間が捻じ曲げられるような感覚が起きる。 「わっ?!」 「また転移か!」 不意を突かれた3人の姿は、そのままクォーツの光の中へと掻き消えた。 3人が飛ばされた場所はやはり同じ様な光景が広がっていた。 出てくる悪魔達の種類が多少変わりはしたが、基本的な進み方は先刻と変わらない。 そしてやはりいくつ目かの扉を過ぎると、同じ様な行き止まりの場所に辿り着いた。 「なんだ、パターンは一緒なのか?」 レッドが少しだけ拍子抜けしたように呟いた。だが、 「―――――否、どうやら全く同じでは無い様だ。」 怒鬼が向かって右を向き、そして左へと視線を流す。 一見、何の変哲も無いようなクォーツの柱に紛れる”鍵”となる柱。 その柱は、この部屋には2本あった。 「まさか当たり外れって訳じゃねぇだろうな?」 「だが油断は出来ないな…。」 もう一度幽鬼が使役を飛ばす。だが、今度はどちらの柱も光を宿す事は無かった。 「どっちも外れだってんならシャレにならねぇぞ?」 何の変化も見せない右の柱に向かって、レッドはズカズカと突っ込んでいく。 「何か他の”鍵”でもあるのか?」 そう言った怒鬼は、逆に左の柱へと近づいていく。 その時、2本のクォーツは同時に光を放った。 「うおッ?!」 「ム!!」 得体の知れない力がまたそれぞれを捕らえようとしたが、 さすがにこう何度も同じ経験をしていれば、それに流されるほど学習能力が無い2人ではない。 寸でのところでその力を振りほどき、転がるようにそれから逃れた。 「何だ?!反応があったと思ったら2本同時かよ?!」 「でも俺の蝶には反応しなかったぞ?」 「今度の”鍵”は一体…?」 3人は不可解な面持ちで、今度は一緒にその柱に近づく事にした。 右の柱は今はもう何の変化も無い。もっとも、それは左も同じ様だったが。 「???今度は何も?」 思い切って幽鬼が直に手を伸ばしてみたが、やはり反応は無い。 「でもさっきは確かに…。」 そう言って一歩下がっていたレッドが手を伸ばす。 途端、クォーツはまた眩い光を放った。 「!」 「チィっ!何なんだ一体ッ!」 「とにかく一度引くぞ!」 そのまままたもや床を転がるように逃れた3人は、今度はそのまま反対のクォーツに近づく。 幽鬼が手を翳した時にはやはり反応は無かった。 「やはり俺だと反応をしないようだな。」 「ふん?だとしたら何が今回の謎解きな―――、」 そう言ったレッドが確認する様にやや慎重にその柱に手を伸ばす。 だが―――――今度は何の変化も起きない。 「あ?」 「…え?」 「………。」 レッドも幽鬼ももう一度手を伸ばしたが、左の柱はやはり反応を示さなかった。 「ちッ、うざってぇな!」 レッドが苦々しく爪を噛む。 内心嵐のごとく苛立っているであろうレッドがここまで抑えているのは立派だ。 そんな時、急に何かを思いついた面持ちの怒鬼がゆっくりと手を翳した。 また突然と左の柱は光を放ち、怒鬼は得心した様に今度は右の柱へ近づき手を翳す。 右の柱は、怒鬼の手には反応しなかった。 「―――――そういう事か。」 「なんだよ怒鬼!何か解ったのか?」 レッドが呼びかけると怒鬼は「おそらくは、」と頷き、 「先の水晶もそうだが、この転移の為の”鍵”はおそらく我等の力に反応している。」 「力?」 幽鬼が聞き返すと、怒鬼はもう一度右の柱に触れながら、 「我等ナガレモノは個々の種別は唯一無二。つまり、能力も同じ訳ではない。 レッドは物理的戦闘も魔力も同等で均等が取れているが、 幽鬼、お主はどちらかといえば魔力の方がやや勝っておるだろう。」 「それはそうだが…。」 「そして拙者は魔力は極端に少なく、代わりに戦闘の方に特化している。 ―――この水晶は、その力に反応しているのだと思う。」 2本の柱の反応が異なったのは恐らくはその為で。 「ここまで来るまでの雑多な悪魔達は種類が変わっていた。 これは憶測だが…このどちらかを選ぶ事で、 それぞれを試す為に丁度良い悪魔のいる階層に転移させられるのではないだろうか。」 さすがに長として”家臣”を取りまとめていた怒鬼である。 戦術や兵法に関しての判断力と推測力は3人で一番だ。 「どこまでもあの覆面野郎の手の内って事かよ!畜生ッ!」 レッドはもう一度足元のクォーツを蹴り崩すと、ズカズカと右の柱へ向かって行く。 「!!レッド!待て!」 幽鬼が慌ててその腕を掴んだが、レッドはそれを振りほどこうともがくと、 「油売ってる場合じゃねェって言ってるだろ!放せ幽鬼!」 「落ち着け!怒鬼の憶測が当ってるなら、尚更慎重に…!」 「どっち行ったって雑魚がいるのは同じなら時間の無駄なんだよ! お前等は後から勝手に来れば―――!」 ドカッ!! 鈍いが派手な音を立て、レッドの身体が横に飛ぶ。 怒鬼がレッドを殴りつけたのだと気づくのに、幽鬼もレッドも数秒かかった。 「……〜〜〜ッ!テメェ怒鬼ッ!何しやがるッ!」 あまりに突然の事で反応が遅れたが、すぐにレッドは怒鬼に突進すると、 真っ直ぐ同じ顔をめがけて右拳を振るう。 紙一重でそれをかわした怒鬼は手刀をレッドの右の首に叩き込むと、 「少々頭を冷やせ、レッド! ヒィッツを案じる気は解るが、それがお主だけだと思っているのか!」 「―――――!!」 クォーツの欠片の転がる床に膝をついたレッドは、怒りと驚愕の混じった目で怒鬼を見上げた。 「………我等ナガレモノは普通の悪魔とは違う。ニンゲンに使役されるいわれは無い。 だがそれぞれの理由は違えど、一人のニンゲンと…ヒィッツと行動を共にするは、 決して只の恩義や酔狂だけではあるまい。」 『―――――。』 幽鬼の右手がギュ、と力強く拳を握り締める。 怒鬼の言葉はレッドは勿論、幽鬼の心にも刺さった。 「切欠は切欠に過ぎぬ。我等には時間も力もある。 それでも彼と共に旅をする事を選んだのは何故だ? 今もこうして、彼の身を案じているのは何故だ? そう考えているのが自分だけだと思っているのなら…それは慢心とも言えるぞレッド!」 たとえその思いが”想い”の違いであろうとも。 「………チッ、まさか朴念仁なオマエに説教されるとはな…!」 レッドは立ち上がり、軽くスーツの埃を叩くと、 「仕方がねぇ。ヒィッツがいるかいないかってだけで、 どうせ戦い方は今までと変わらねぇんだ。 迎えに行こうぜ―――――3人で。」 そう言ってレッドは少しだけ口の端を上げたが、すぐに「あ、でも!」と怒鬼に詰め寄り、 「ヒィッツは俺の物だ。手は出すなよ?」 『何もこんな時に………。』 幽鬼は心から呆れて溜息をついた。だがレッドの目は真剣だ。 「お前じゃあるまいし…。」 思わずそう呟いた幽鬼であったが、その顔は何かが吹っ切れたようなすっきりとした顔だ。 そしてそれはレッドも怒鬼も同様で、3人は出会って初めてお互いに砕けた笑顔を見せた。 |
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