| ※ ※ ※ ※ ※ 怒鬼の指示で、編み笠達はすぐに簡易の座卓を準備した。 樹海はまだ少し燻った様な臭いが漂っていたが、空気の静寂は元通りだ。 どんなルートがあるのか人間であるヒィッツにだけきちんとした茶まで準備され、 先刻までの緊迫したムードが嘘のようだ。 「………で、話というのは?」 怒鬼が切り出し、ヒィッツは今までの自身の経験と経過を掻い摘んで説明した。 自身も過去を知らずにデビルバスターを続けている事、 同じく過去の無いレッドとの遭遇、そして幽鬼と出会ったことで知った『ナガレモノ』の存在、 ナカノのオベリスクの実験、そのために別れてしまった幽鬼の仲魔を探している事………。 「この幽鬼はこの間まではこの辺りに住んでいたというんだ。 で、最近この辺りでデビルバスターが倒されていると聞いて、何か手がかりでもあればと思ったんだが…。」 怒鬼は静かに話に耳を傾けていたが、一通り終わった時点で口を開くと、 「―――残念ながら、その探しているというご老人の噂は聞かぬ。」 だが参考になるかは解らないが、と付け加え、 「ナカノのオベリスク…これと似たような物が他にも点在しているのは知っているか?」 「シブヤのオベリスクの事か?」 「それもだが…イチガヤにもあるのだ。」 「イチガヤ?」 幽鬼が初めて聞く地名に首を傾げた。 「新宿バベルから行ける場所だったか?なんか放り出された炭鉱がある地帯って聞いた気がしたけどな?」 レッドが両腕を頭の後ろに組みながら口を挟んだ。 「炭鉱もあった気はしたが…あそこは過去の”東京大崩壊”時にI.C.B.Mが打ち込まれた場所だ。 そのせいで土地が死に絶え、地下火山の活動が活発になっていると聞いた。 第一級危険地域だから人の出入りがほとんど無いと………。」 ヒィッツが聞きかじった話を出すと、怒鬼は僅かに首を横に振り、 「過去の崩壊跡地なのは間違いないが、イチガヤの中心部にあるのは赤のオベリスクだ。 そしてそれはこのナカノやシブヤの物よりも波動が強く、且つ活動を停止していない。」 「な…?!」 「…そして拙者は、そのイチガヤから来た。」 「!!」 3人とも驚いて思わず声が詰まる。 「………過去の記憶が無い、というのはそちらのナガレモノと御同様。 唯一解っているのは自分が気がついた時にはイチガヤに居た事と、」 怒鬼は塞がっている右目に触れ、 「この”目”を探している、という事だけだ。」 「目?」 思わずヒィッツが聞き返す。怒鬼は頷くと、 「拙者の右目は中が空ろになっている。だが、何故かそこに収まるものがあった気がしてならない。 なのでイチガヤを出て、”目”の手がかりを探しているのだが………。」 「でもここに住んでるって事は手がかりがあったって事じゃねェのか?」 怒鬼はレッドの言葉に静かに首を振り―――視線を流した。 その先には編み笠の悪魔達が何やら働いたり鍛錬を行ったりしている。 映像資料で見た『武家屋敷』のようだ、とヒィッツは思った。 「旅の途中このナカノに立ち寄った際に、偶然にも彼等の魂を見つけてしまった。 拙者がここに逗留したのは―――――彼等の鎮魂だ。」 「鎮魂?」 「そうか…解った。」 幽鬼がやっと合点がいった、とばかりに口を開く。 「怒鬼はナガレモノだから当然COMPには反応しないが、彼等は普通の精神体…”悪魔”なんだな?」 「そうだ。あの姿は拙者の気によって彼等の記憶が具現化した物に過ぎない。 元々はこの土地に漂っていた…モウリョウやオンリョウの類だ。」 そこでヒィッツはやっとああ、と納得できた。 姿形が見た事のないものだったので戸惑ってしまったが、”悪魔”は精神体が具現化した姿だ。 彼等は元々居た”悪魔”が、怒鬼の力によって形を変えていただけなのだ。 「彼等は遥か昔、この土地で死に絶えた戦士の魂だ。 主君に仕え役立つ事を生き甲斐にしてきた為、死して尚、主人を探し続けていた…。」 自分達より遥かに強大な力を持つ怒鬼が立ち寄った事で、彼等は怒鬼を『主』と認めたのだという。 「主人に仕える事で彼等が納得するのならそれでいいと思った。だが………。」 「考えが甘かったな。奴等はそれで活気を取り戻し、納得して昇天どころか増長しちまった。」 「レッド!」 ヒィッツが慌ててたしなめたが、怒鬼は自嘲気味に笑うと、 「いや、彼の言う通りだ。むしろ、眠らせてやらねばならぬ魂まで起こしてしまったのだから。」 それでも手助けしてしまった以上、放って行く事も出来ず。 いつしか噂を聞きつけてやって来るデビルバスター達を討ち倒しながら、自身の目的まで見失いかけていた。 「だが…貴殿等のおかげで決心がついた。」 怒鬼はまた閉ざされた右目にそっと指を当てると、 「この”目”を取り戻す事がやはり自身の第一。その為にはこの土地を離れねばならぬ。」 そして、怒鬼は左の目でヒィッツを見つめると、 「貴殿の目も色無き空ろ。意味合いは違えど、いつかその真意が解るかも知れんな。」 「………。」 無意識にヒィッツは指先をまなじりに当てた。 自分の思い出せない過去とこの異形の目。 接点があるかもしれないなどと、考えた事も無かった。 ※ ※ ※ ※ ※ 「―――――と言う事情で、拙者はしばしこの土地を離れる事にする。」 怒鬼の発言に、編み笠の悪魔達にざわめきが起きた。 「怒鬼様、それは―――!」 「我等に何か不手際があり申したか?!」 慌てた数名が前に出たが、怒鬼は首を振ると、 「主等は良く仕えてくれた。だが、拙者にはどうしても自身の手で決着をつけねばならぬ事がある。 それまでの間、この地を離れるというだけの事………察してもらえぬか。」 悪魔達はまだ動揺が隠せないようだ。 「………嘘も方便、って言うのか?アレ?」 レッドは怒鬼達の様子を少し離れた場所で見つめて言った。 「アイツ、”目”を見つけたら旅する意味は無いんだろ?ここには戻って来なくたっていいんだもんな。」 「そうかな…。」 ヒィッツは隣で同じ様に眺めていたが、 「すぐにここを離れられなかったのは、彼等の意思を汲んでの事だろう。 旅する意味が無くなるのなら…”目”を見つけたら、彼等の為にここに戻るつもりなんじゃないかな。」 「拙者が戻るまで、皆静かにこの地を守っていてくれ。 無益な争いをせず、この土地の平穏だけを考えて………。」 「怒鬼様―――――!」 ヒィッツはレッドと幽鬼の顔を見渡すと、思い切ったように口を開いた。 「もし…彼が了解してくれればだが、 怒鬼も一緒に新宿バベルに連れて行きたいんだが…どうだろう?」 「は?!何で突然!」 「俺は別に構わないけれど…。」 レッドの言葉に重なって幽鬼の返事は消え気味だったが、 それには構わず、レッドはヒィッツの両肩を掴んで怒鳴った。 「何でまた仲魔増やそうとしてんだよ?! アレか?!俺が勝手に契約解除したのが気に食わないのか?!」 ヒィッツは予想通りの反応のレッドを静かに見つめると、 「そうじゃない。 ただ…彼の”目”について、もしかしたら幽鬼の爺さんが何か知っているかもしれないし、 それに『イチガヤ』の話をもっと聞きたいんだ。」 自分の見えない過去が、何か解るかも知れない――――― 今まで考えもしなかった希望が見えたような、そんな感覚。 ヒィッツはそれ以上何も言わず、レッドの顔を見つめた。 レッドはまだ何か怒鳴ろうと少し口を開けかけ…苦虫を噛み潰したような顔になり、 やがてフイと横を向くと、 「………解ったよ、チクショ!」 「レッド……!」 「お前がそういう顔する時ってのは、もう自分の中で決めてる時だもんな。 そんな時に俺が何言ってもダメだってのはいい加減学習したぜ。」 だけどな、とレッドはその両手でヒィッツの顔を挟むと、 「覚えておけよ?俺はお前がニンゲンでもなんでも構わねぇんだからな!」 ヒィッツはその威勢に目を丸くしたが、すぐに笑いかけると、 「すまないな、レッド…。」 そう言って、自分の頬を挟んでいるレッドの手に自分の手を重ねる。 「フン、謝る位ならそんな顔で頼み事なんてすんな!バカ!」 そう言って、照れ隠しのように軽くヒィッツにキスをする。 だがすぐに何かはた、と気づいたように動きを止めると、 「………そう言えば俺、お前と召喚契約を結び直してなかったよな………。」 「え?」 ヒィッツの身体と顔が硬直したが、レッドは構わずニヤリと笑うと、 「なあ、契約し直そうぜ?」 そう言って、首筋に顔を埋めてしまう。 「なっ!お、おいレッド!」 「普通の悪魔だって、一度解除したらまた仲魔にするには交渉が必要だろ?同じだと思えよ。」 「そういう事じゃなくて!!」 レッドの身体を押しのけようとするヒィッツに尚も食い下がるが、ヒィッツは最初の頃の様に暴れると、 「こんな場所でするつもりか馬鹿!」 「!」 思わず叫んだヒィッツの台詞に、さすがにレッドの手も止まる。 同時にヒィッツの顔も紅潮し………ついでに止めるべきか悩んでいた幽鬼の顔も赤くなる。 「―――じゃ、ニンゲンも悪魔も居なけりゃオッケー?」 「〜〜〜〜〜っ!!」 このものすごく嬉しそうなレッドの表情は、何が何でもヤる、の顔。 ヒィッツが何を言っても結果は同じだという事は、さすがにもう学習した。 口を滑らして墓穴を掘ったとは言え、ヒィッツはどうしていつも…と大きく溜息をつくと、 「幽鬼…怒鬼への話、任せてもいいか?」 「ああ………解った…。」 幽鬼の方も結局どうしていいのかは解らなかったのだから、 役目を振ってもらえたのはある意味助かったのかも知れない。 レッドは幽鬼の返事を聞くやいなや、ヒョイとヒィッツの身体を抱え上げると、 「じゃ、早速行くとするか!」 樹海の中にもある程度平和な場所がある事は解っている。レッドはそのまま空へと舞い上がった。 ヒィッツは落とされまい、とレッドの首に腕を回していたが…小さな声で、 「お前が…戻ってきてくれて、良かった。」 呟いた台詞は果たしてレッドの耳に届いていただろうか。 「―――――?ヒィッツとレッドは何処に?」 別れを終え、怒鬼は改めて辺りを見回し、幽鬼しかその場にいない事に首を捻った。 「あ、その、召喚の”再契約”に…。」 「召喚契約を?あのCOMPとやらに登録するだけでは無いのか?」 「あの2人の場合は特殊なんだよ。」 更に謎が深まった顔をした怒鬼に、幽鬼は話をそらすかのように、 「それよりも怒鬼、ヒィッツの提案なんだが………。」 ―――――その日、ヒィッツのCOMPに第三の『ナガレモノ』が登録された。 * * * * * 長ッ!!(今更) もうやりたい放題になってきましたメガテンパロ。 相変わらず最後がバカップルですみませんー。 今後舞台や設定に使った場所とかのSSをメガテン日記に載せられればいいなーとか思ってます。 |
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