締め切ったままの部屋には生温い空気が澱んでいたが、
そんな空気でもないよりはマシだとでも言う様に自然と口が開く。
だが次の瞬間その口から……喉の奥から飛び出したのは、
自分でも耳を塞ぎたくなるような嬌声だった。
「ハハッ」
私の目の前でレッドが忌々しく嗤う。
その顔は紅潮して薄く汗が滲んでいたが、目の色は狂気を帯びていた。
「随分良い声で啼くな。こんな場所でも興奮するのか」
そう言いながらレッドは一度引いた腰を打ち付けるように私の下腹部に宛がう。
無理矢理に抉られるような感覚はまだ痛みとして感じたが、
内壁を擦られる行為にはもはや慣れた。その痛覚の果ての快感を探り当てられる程度には。
だが。
「それ、は、お前の、方、だろう……ッ」
そう答えた私は顔をそらして枕に半分顔を埋める。
自分の顔を見せたくなかったのもあるが、それ以上にこの臭いに耐えられなかった。
締め切ったままの部屋には生温い――――血臭が澱んでいる。



単純な任務だった。
今回の作戦ではまず某施設の幹部から機密を入手することが優先された。
そしてその幹部が女だったので、ハニートラップの成功率が高い私が任務に就いた。それだけだ。
かくて私はまんまと女幹部との接触に成功し、色欲の駆け引きに応じた女から機密を入手した。
その女は今、私がレッドに抱かれているベッドの下で息絶えている。
私の上で絶頂を迎えた女は、次の瞬間顔に恍惚の笑みを浮かべたままこと切れた。
レッドはご丁寧にも頸動脈を切った際に噴き出す血流の放物線まで計算していたらしく、
奇跡的に私には女の血一滴付かなかったが、
さすがに一瞬何が起きたかわからなかった私が慌てて身体を起こした時には、
先刻まで私の上で嬌声を上げて艶やかな唇から舌を覗かせていた女は、
毛足の長い絨毯の上で最後の痙攣を起こした所だった。
「なっ!?」
女がつけていた香水の香りが一瞬で鉄錆の臭いに変わる。
戦場で嗅ぎ慣れたそれと今ここにレッドがいる事が私を混乱させたが、
当の本人はそんな事を構う事無く私の身体をそのままベッドへ押し付け、
「任務は完了してるだろう?」
そう言って嗤った。
左の頬に付いた真新しい赤い染みを拭う事もせずに。



数時間前に抱いた女の死体の横で、私はレッドに抱かれている。
この男の歪んだ執着には慣れたつもりがったが、どうやらまだ私は常識人の範疇だったらしい。
何度目かの不本意な絶頂の後、私は視線だけでレッドを見やった。
レッドはその視線に気づくと、多少落ち着いた様子で私を見下ろし、
「何か言いたそうだな? 言っておくがこの女を始末するのは計画の範囲内だぞ?」
「……そんな事はわかっている。だが、何故この場所を選んだ?」
乱された思考の中、ずっと気になっていた事を素直に訊ねる。
私の問いかけにレッドはニヤリと口角を上げ、
「したり顔で女を抱いているお前を、女と同じ顔にしてやりたかった」
そう答えたレッドの眼は薄暗く、そこには雄という名の獣が居た。