ほんの小さな、針の穴の様な。
きっかけはそれだけで充分過ぎた。



一言名前を呼びかければ、どうした、と返って来る。
当然のような日常が心地良すぎて、
その決壊は気づかない内に幽鬼の心にひびを入れる。
普段なら見る事の無い穏やかな笑顔が好きだ。
けれど、
その笑顔の向こう側の歪んだ素顔を見たいと思うのは。

どこまでも幽鬼には甘い彼の、本当の感情を。



幽鬼、と呼びかけられて我に返れば、
具合でも悪いのか?と伸ばされる腕。
小さく何でもないと答えてみても、その手はやはり幽鬼には甘い。
その仕草一つが、堤防に穴を穿つ事も知らず。



いっそこの腕を掴んだら。

心のひびは蜘蛛の糸の様に広がっていく。
優しさと言う枷をこの右手が断ち切るまで―――――時間はかからない。





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