マンデリンと角砂糖の午後
(幽鬼とヒィッツ) |
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「イタリアでは苦いコーヒーに砂糖とミルクをたっぷり入れるが、」
そう言ってヒィッツは肩をすくめる。
「その両極端な感性はどうも解らない。」
苦いなら苦い、甘いなら甘い、
何故にわざわざ極端に苦くしたものを作って極端に甘くするのかと。
幽鬼はエスプレッソの飲み方に詳しくは無かったが、
どうも今後は頼みづらくなる気がした。
だが、自分もヒィッツと同じ感想を持ったので「そうだなぁ」と相槌を打つ。
そんな様子にヒィッツは軽く笑うと、
「まあ、飲み方は人それぞれだが。」
そう言いながら、新しいコーヒーをカップに注ぐ。
酸味のある良い香りが漂ったが、
幽鬼はその後のヒィッツの動きから目をそらせない。
ブラックのコーヒーを注いだヒィッツは、角砂糖を一つ手に取ると、
カリ、と一口かじり、その欠片を口に含んだままコーヒーを口にする。
さっきからその繰り返しだ。
幽鬼はその飲み方も充分理解できない、と内心呟く。
コーヒーに溶かしてしまうものをわざわざ口にしてから溶かすなんて、
幽鬼にしてみれば「何でそんな手間を」、である。
だが、ヒィッツはどうも無意識に行っているようで、
測ったようにカップ一杯分にきっちり一個の角砂糖を使い切ると、
「どうした?」
と、何事も無かったように幽鬼の顔を見る。
それが元からなのか最近覚えた飲み方なのかは解りかねたが、
飲み方は人それぞれ、だ。
なんでもないさ、と幽鬼は自分のコーヒーを飲み干す。
底に茶色く染まった結晶が張り付いていて、幽鬼は何となく損した気分になった。
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