いつの頃からだったのだろう、
その手が差し伸べられたのは。



「寒くないかい、お嬢ちゃん?」
「あ…。大丈夫、です…!」

小春日和の一転した冬のある日。
雑木林の散歩をご一緒したヒィッツ様は私の言葉に微笑むと、

「そうか。私は少々手を冷やしてしまってね。
 お嬢ちゃんが大丈夫なら手を繋いでくれないかな?」

そう言って、指の長い白い手をそっと差し出してくれた。
手袋のないその手は私の手よりもずっと温かく、
思わず手を引っ込めようとしたその時、柔らかな温もりが私の右手を包んだ。
立ち枯れた雑木林は寂しげに見えたけれど、
同じ色のコートに身を包んだヒィッツ様が隣にいる事が嬉しかった。

「ああ寒いはずだ。思ったより早かったな。」

そう言ったヒィッツ様を見上げると、灰色の空から舞い落ちる白い欠片。
綿のような雪は、雑木林もヒィッツ様も私も、みんな同じ色に染めていく。

「戻ろうか。雪の中の散歩も結構だが、あれが無くては絵にならない。」
「あれ?」
「傘だよお嬢ちゃん。良い男とレディーが並ぶなら、せめて1本は欲しいところだね。」

そう言っておどけた様に笑ったヒィッツ様は、もう一度私の右手を握りしめると、

「だから今日は戻ろう。続きは雪を見ながらのお茶会にしようじゃないか。」
「…はい!」



そして私達は歩き出す。雪は少しずつ数を増していく。
うっすらと積もり始めた白い絨毯に足跡を付けながら、
私はその温かく柔らかなその手を、そっと握り返した。